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最新の研究成果
水素やアンモニアの製造に用いる触媒をパン酵母で作製! -高価な希少金属触媒の代替を目指して-
2025年2月7日
- 工学研究科
- プレスリリース
概要
水素やアンモニアは燃焼時に炭素が発生しないため、環境にやさしい次世代エネルギーとして注目されています。水素は水を電気分解することで製造できますが、電極触媒として利用される白金はコストが高く、実用化の足かせとなっています。またアンモニアは、窒素と水素を高温・高圧下で処理することで大規模製造が可能ですが、化石燃料も大量に消費するため、硝酸を電気分解して製造する方法が注目されています。これらのことから、低コストかつ効率的に水素やアンモニアを製造できる代替触媒の開発が進んでおり、その一つが遷移金属リン化物※です。しかし原料となるリン(P)の化合物は高価な上、毒性が強く爆発の危険があるなど取り扱いが難しいため、より低コストで安全な遷移金属リン化物の作製方法が求められています。
大阪公立大学大学院工学研究科の尾島 由紘准教授、東 雅之教授、山田 裕介教授らの共同研究グループは、パン酵母と遷移金属のうち触媒としての活性が高いコバルト(Co)を炭化させることで、遷移金属リン化物の炭素複合体(Co2P-C)を作製する方法に着目。遺伝子変異により、通常は約1~2%しかないパン酵母の細胞内のリン蓄積量を約8%まで増加させることで、CoとPが1:1の比率で合成されたCoP-Cの作製に成功しました。また、合成したCoP-Cの触媒活性を調べたところ、水素の製造では他の手法で作製したCoPと同程度、アンモニアの製造では他の触媒と比べて最も高い活性を持つことが分かりました。
本研究成果は、2025年1月9日に国際学術誌「Biotechnology Reports」のオンライン速報版に掲載されました。
パン酵母などの微生物細胞を化学触媒の材料とする意外な利用方法に関する研究が注目を集めています。発酵食品やバイオ医薬品の生産だけでなく、微生物の利用分野は拡大し続けており、今後も新たな発見を求めて研究を続けていきます。
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尾島 由紘准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】Biotechnology Reports
【論文名】Cobalt phosphide-loaded biochar synthesis using phosphate-accumulating yeast and its application as an electrocatalyst
【著者】Yoshihiro Ojima, Riho Akiyoshi, Itto Tokiwa, Takashi Nakazono, Yusuke Yamada, Masayuki Azuma
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.btre.2025.e00874
資金情報
本研究の一部は、JST可能性検証(JPMJSF23B5)、JSPS科研費(JP23K04511)の支援の下で実施されました。
特許情報
リン化コバルト炭素複合粒子 特願2024-134697(優先日:2024年1月18日、発明者:尾島 由紘、東 雅之、秋吉 理穂)
用語解説
※ 遷移金属リン化物…コバルトやニッケルなどの遷移金属とリンが結合した化合物で、化学的安定性が高いという特徴を持つ。白金などの貴金属よりも安価なため、触媒や熱電変換材料などの機能性材料として応用が期待されている。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 尾島 由紘(おじま よしひろ)
TEL:06-6605-2163
E-mail:ojima[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
該当するSDGs