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最新の研究成果
低エネルギー理論の最も簡単な場合における、相図の作成に世界で初めて成功
2025年2月18日
- 研究推進機構
- プレスリリース
ポイント
◇作成した相図は、大きく分けて三つの相と一つの3重点を持つ。
◇相図の相転移線の決定と、性質の一端を解明。
概要
素粒子物理学の理論では超対称性※1を課すことにより、低エネルギーでの振舞いを厳密に決定できることが知られています。
大阪公立大学南部陽一郎物理学研究所の糸山 浩司特任教授、数学研究所の吉岡 礼治特別研究員らの研究グループは、ユニタリー行列模型※2を用いて低エネルギー理論の性質を探求した結果、低エネルギー理論の最も簡単な場合における相図の作成に世界で初めて成功しました。その相図は、大きく分けて三つの相と一つの3重点を持ちます。また、相転移線の決定と、性質の一端を解明しました。本研究結果により、素粒子物理学における行列模型の有用性が示されました。
本研究成果は、2024年12月5日に国際学術誌「Nuclear Physics B」にオンライン掲載されました。
図 本研究で作成した相図
各相は固有値のいない領域(gap)の数で分類でき、0-gap、1-gap、2-gapと名付けられている。各名称を囲んでいる円図は、固有値分布の様子を描いたもの。ユニタリー行列模型では固有値は円周上に分布し、太線が固有値の集まりを表す。相図として特徴的なのは、3重点(λ,τ)=(3/2,1/8)の存在である。
物理の研究は何をどうやるか、何ができるか、いつも手探り状態で始まります。今回も紆余曲折ありましたが、相図という形で結実しました。本研究は容易な計算と論理の積み重ねのみで構成されており、結果は簡単な図にまとめられます。そういう意味で状況を想像しやすく、やりやすい研究だったと思います。素粒子物理学の更なる発展に寄与することができれば幸いです。
糸山 浩司特任教授 吉岡 礼治特別研究員
掲載誌情報
【発表雑誌】Nuclear Physics B
【論 文 名】Phases and triple (multiple) point: Critical phenomena around the AD singularity
【著 者】Hiroshi Itoyama, Reiji Yoshioka
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.nuclphysb.2024.116765
資金情報
本研究はJSPS科研費23K03393、23K03394の助成を受けたものです。
用語解説
※1 超対称性:素粒子はボース粒子とフェルミ粒子の2組に分類されるが、それらの粒子をお互いに入れ替えても理論が不変となる性質を超対称性という。超対称性を課すことで、全ての素粒子が異なる組にパートナーを持つことになり、厳密な低エネルギー理論を手に入れることができる。超対称性は現在まで自然界では確認されておらず、高エネルギー実験において大きく破れた形で発見されることが期待されている。超対称性の破れの問題も、重要な研究テーマの一つ。
※2 行列模型:少数の変数を用い、さまざまな自然現象を記述するのが物理の基本的な考え方である。しかし変数の選び方は対象ごとに異なり、例えば力学では粒子の位置や運動量がその役割を果たす。行列模型は変数が全て行列になっているものを指す。本研究で取り上げたユニタリー行列模型は、変数である行列が「行列とその随伴行列との積が単位行列」という性質を満たすユニタリー性という条件を満たしていることを意味する。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学南部陽一郎物理学研究所
特任教授 糸山 浩司(いとやま ひろし)
TEL:06-6605-2533
E-mail:itoyama[at]omu.ac.jp
大阪公立大学数学研究所
特別研究員 吉岡 礼治(よしおか れいじ)
E-mail:ryoshioka[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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