
最新の研究成果
犬の肝細胞癌における遺伝子発現量の変化を、CT画像から推測できる可能性を示唆
2025年2月28日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
概要
肝細胞癌(HCC)では、一つの腫瘍内で異なる組み合わせの遺伝子変異を持つ細胞集団が存在することが知られており、この現象は腫瘍内不均一性※と呼ばれています。そのため、病理検査を行っても腫瘍内全てのゲノム情報や病理組織学的特徴を把握することができません。ゲノム情報の違いによって予後や治療反応が異なりますが、腫瘍内不均一性を示すHCCでは腫瘍内のゲノム情報の把握が難しく、最適な治療薬を選択することや犬のHCCの予後を評価することは困難です。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の田中 利幸准教授らの研究グループは、犬のHCCの診断に用いるCT検査の際、造影剤注入後の早期段階(造影早期)で強い造影効果を示す部分と示さない部分があり、この違いを遺伝子レベルで解析することでCT画像の所見から腫瘍の特性を推測できる可能性を考えました。そこで、造影早期で強い造影効果を示す、腫瘍内において新生血管が増生した多血HCC、造影効果を示さない非多血HCC、正常な肝臓における遺伝子発現量を比較しました。その結果、多血HCC ではDUSP9、SLPI、ALDH1L2の発現量が、正常な肝臓ではTRPV6の発現量が最も上昇していました。また、非多血HCC ではSLC1A1の発現量が、正常な肝臓ではTOP2A、CENPFの発現量が最も低下していました(図1)。犬の多血HCCでは、人の多血HCCで発現量が増加する遺伝子の発現量に変化が見られなかったため、犬HCCは人HCCとは異なる血管新生機序が関与する可能性が示唆されました。また、CT画像からHCCの遺伝子発現量を推測できる可能性が示されました。
本研究成果は、2025年2月7日に国際学術誌「Veterinary Sciences」のオンライン速報版に掲載されました。
図1 多血HCC、非多血HCCのCT画像と遺伝子発現量の変化
掲載誌情報
【発表雑誌】Veterinary Sciences
【論文名】Early Enhancement in Contrast-Enhanced Computed Tomography Is an Index of DUSP9, SLPI, ALDH1L2, and SLC1A1 Expression in Canine Hepatocellular Carcinoma: A Preliminary Study
【著者】Toshiyuki Tanaka, Tomoki Motegi, Nanami Sumikawa, Misaki Mori, Shohei Kurokawa and Hideo Akiyoshi*
【掲載URL】https://doi.org/10.3390/vetsci12020137
資金情報
本研究は、JSPS科研費(JP22K05991)の助成を受けて実施しました。
用語解説
※ 腫瘍内不均一性…腫瘍の細胞や遺伝的特徴が均一でなく、多様な性質を持つこと。腫瘍内にさまざまな性質を含むことで、悪性度や治療抵抗性に影響を与えている。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科
准教授 田中 利幸(たなか としゆき)
TEL:072-463-5457
E-mail:t-tanaka[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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