
最新の研究成果
mRNAは消えて終わりじゃない! -mRNA分解中間体が転写を抑える新たなフィードバック機構の発見-
2025年3月21日
- 農学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇遺伝子発現の環境条件に応じた制御に、翻訳抑制・mRNA分解・転写抑制の3つが連動した多層的な制御機構が存在することを発見しました。
◇これまで不要と考えられていたmRNA分解中間体からsmall RNA(sRNA)が生成され、NIP5;1遺伝子の転写の抑制に関与していることを発見しました。
◇このsRNAは、遺伝子発現を制御するタンパク質ARGONAUTE1(AGO1)に取り込まれ、転写装置であるRNAポリメラーゼII(Pol II)の動きを抑えることで、NIP5;1遺伝子の転写を調節していることを示しました。
概要
東京大学大学院農学生命科学研究科の藤原徹教授、大阪公立大学大学院農学研究科の反田 直之助教らは、植物の必須元素の環境中の濃度に応じて適切に吸収を制御するために不可欠な新たな遺伝子発現制御機構を発見しました。具体的にはシロイヌナズナのホウ素輸送体NIP5;1の遺伝子発現が細胞内のホウ素濃度に応じて、転写・翻訳・mRNA分解が連携する「多層的な制御システム」によって調整されていることを今回明らかにしました。特に、5'-非翻訳領域(5'-UTR)(注1)に存在するAUGUAA配列上で、リボソーム(注2)がホウ素濃度を感知して停止することで、翻訳の抑制・mRNAの分解・転写の抑制が連動する仕組みを明らかにしました。
さらに、NIP5;1mRNAの分解が単なる遺伝情報の消去ではなく、転写を調節するシグナルを生み出す役割を持つことを明らかにしました。分解されたmRNAの一部からsRNA(注3)が生成され、NIP5;1の転写を抑制するフィードバック機構として機能していたのです。
本研究により、転写・翻訳・mRNA分解の2つの制御が密接に連携しながら働いていることが示され、これまで個別に研究されることが多かった遺伝子発現の制御が統合的に機能することで環境条件の変化に応じてより効果的に遺伝子の発現を制御していることを明らかにしました。
本研究成果は、2025年3月20日に国際学術誌「Nucleic Acids Research」のオンライン速報版に掲載されました。
環境中のホウ素濃度が高くなってから、NIP5;1遺伝子の転写の抑制が起こるまでの多層制御機構
掲載誌情報
【発表雑誌】 Nucleic Acids Research
【論文名】Ribosome stalling-induced NIP5;1 mRNA decay triggers ARGONAUTE1-dependent transcription down-regulation
【著者】Mayuki Tanaka, Naoyuki Sotta*, Susan Duncan, Yukako Chiba, Hitoshi Onouchi, Athanasius F. M. Marée*, Satoshi Naito, Verônica A. Grieneisen*, Toru Fujiwara*,(*責任著者)
【掲載URL】https://doi.org/10.1093/nar/gkaf159
資金情報
本研究は、科研費「基盤研究(S) 植物の栄養感知機構の解明と栄養応答統御(研究代表者:藤原徹)(課題番号:19H05637)」、「学術変革領域(A)周囲環境応答としての植物成長特性の力学的最適化の柔軟性(研究代表者:藤原徹)(課題番号:18H05490)」、「基盤研究(C) AUG-UAAを介したリボソーム停滞のホウ素栄養制御機構(研究代表者:田中真幸)(課題番号:18K06278)」の支援により実施されました。
用語解説
(注1)5'-非翻訳領域(5'-UTR)…mRNAの転写開始点から翻訳開始点(タンパク質の合成が始まる位置)までの間に存在する、タンパク質に翻訳されない領域。この領域は、mRNAの安定性や翻訳効率の調節に関与し、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たす。
(注2) リボソーム…細胞質に存在するタンパク質合成のための装置。mRNAの遺伝情報を読み取り、それに基づいてアミノ酸をつなげ、タンパク質を合成する。
(注3) small RNA(sRNA)…長さが20~30塩基程度の短いRNA分子で、遺伝子の発現調節に関与する。特定のmRNAと結合することで、その分解を促したり、翻訳を抑制したりする。植物や動物を含む多くの生物で、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たしている。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院農学研究科
助教 反田 直之(そった なおゆき)
TEL:072-247-6096
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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