
最新の研究成果
アライグマから検出したプロビデンシア属細菌から病原遺伝子を持つ菌種を新たに発見
2025年3月27日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
概要
地球温暖化により、野生動物が媒介主となる人獣共通感染症の拡大が世界中で懸念されています。プロビデンシア属細菌※1は、腸管出血性大腸菌のO157やサルモネラなどと同様に重篤な食中毒を引き起こす原因菌として注目されています。しかし、感染源や感染経路には不明な点も多く、その解明や予防法の確立が求められています。
大阪公立大学大学院獣医学研究科/大阪国際感染症研究センターの山﨑 伸二教授、日根野谷 淳准教授、Okechukwu John Obi大学院生らの研究グループは、新興人獣共通感染症菌の媒介主となるアライグマがプロビデンシア属細菌も媒介する可能性があると考え、アライグマの糞便検体を調査しました。11種類のプロビデンシア属細菌のうち7菌種が検出され、その中には過去に集団食中毒を引き起こした2菌種(P. alcalifaciens、P. rustigianii)が含まれることが明らかになりました。また、他にも細胞膨化致死毒素(cdt)※2と呼ばれる病原遺伝子を持つ菌種(P. rettegani)が新たに見つかりましたが、遺伝子の一部に欠損があり、現状では食中毒を引き起こす可能性が低いことも分かりました。さらに、これまでcdtを持つ環状のDNA分子(プラスミド※3)は細胞内に1つしか確認されていませんでしたが、今回検出したP. rustigianiiの一部では、cdt遺伝子を持つプラスミドを2つ保有しているものがあることが分かりました。
本研究成果は、2025年2月25日に国際学術誌「Microbiology Spectrum」のオンライン速報版に掲載されました。
Providencia属細菌は、1996年に福井県での集団食中毒事例の原因となったことを皮切りに、日本のみならずチェコやケニアでの食中毒事例の原因菌として分離されています。またブタや犬の水様性や血性下痢症の原因となるなど、新興人獣共通感染症菌としても問題となっています。本研究で得られた新たな知見を、Providencia属による食中毒の制御に役立てたいと考えています。

Okechukwu John Obi大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】Microbiology Spectrum
【論文名】Wild raccoons (Procyon lotor) as potential reservoir of cytolethal distending toxin producing Providencia strains in Japan
【著者】Okechukwu John Obi, Atsushi Hinenoya, Sharda Prasad Awasthi, Noritoshi Hatanaka, Shah M. Faruque, Shinji Yamasaki
【掲載URL】https://doi.org/10.1128/spectrum.02616-24
資金情報
本研究の一部は、JSPS科研費(20K07483)からの支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 プロビデンシア属細菌…大腸菌やサルモネラなどと同じく、細菌の分類学上、腸内細菌目に属する細菌。
※2 細胞膨化致死毒素…細胞を膨化させた後、さらに細胞を致死させるタンパク毒素。
※3 プラスミド…細菌の染色体DNAとは別に、生命活動に必須でない(病原因子や薬剤耐性)遺伝子を保持している。菌種間を伝播する能力を有するものと有しないものがある。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科/大阪国際感染症研究センター
教授 山﨑 伸二(やまさき しんじ)
TEL:072-463-5653
E-mail:yshinji[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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