取り組み事例

2024年8月12日

  • 環境マネジメント推進室

【公大高専の取り組み】神戸港兵庫運河がつなぐ地域活動

大阪公立大学工業高等専門学校都市環境コース大谷研究室では大阪湾を対象に沿岸域の環境に関する研究がおこなわれています。

近年は、神戸市兵庫区に位置する兵庫運河を中心とした現地調査をおこなうことによって、水環境生態系の解明に関する研究がおこなわれています。

兵庫運河では、2021年から漁協や行政、地元の方と一緒に、水質やアサリ、アマモなどの生態系の調査がおこなわれてきました。

兵庫運河について

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兵庫運河は、全長6,470m、水域面積は計約34haと、日本最大級の規模の運河です。

材木の保管場所として活用されていましたが、2005年には貯木場としての水域利用が終わりました。現在では、散歩道が整備されライトアップされるなど、地元住民に親水空間として利用されています。

また、地元団体によって、アマモの植え付けやアサリの育成実験など、生態系の再生活動がおこなわれてきました。

◀ 202211月調査前の集合写真

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▲ 運河内のアマモ

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▲ 人工干潟

2020年には神戸港内の防波堤撤去工事で発生した基礎石等を活用した人工干潟が運河内に造成され、2022年に運河内の人工干潟とアマモ場が関西で初めて(国内で2例目)となる「Jブルークレジット※」の認証がされました。

※ Jブルークレジット…ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が、炭素吸収量を測定し、独自のJブルークレジットを認証する制度。

漁業組合やNPOなどが海藻を育てた成果としてJブルークレジットを販売し、購入企業は自社の排出量から炭素吸収分を打ち消す「オフセット」ができるという、環境に関する取り組みの1つ。

調査背景

「ブルーカーボン」とは、マングローブ、海草藻場などの海洋生態系によって隔離・貯留された二酸化炭素(CO2)由来の炭素のことで、陸域の森林等により吸収されるCO2由来の炭素「グリーンカーボン」とならんで、今注目されています。

人工干潟が造成されたことによってどのような環境への効果を明らかにするため、研究室では兵庫運河での炭素固定機能の調査がおこなわれています。兵庫運河の海面においてCO2が吸収されているのか、もしくは放出されているのか調べるため、CO2の吸収に寄与していると考えられる底生微細藻類、植物プランクトン、アマモなどの光合成や呼吸速度について評価されました。

運河の調査からわかってきたこと

海面にて、CO2は大気から水中に吸収されていることがわかったそうです。また、そこに生育するプランクトンやアマモといった藻類や海草は炭素を固定しており、この海域がCO2吸収・固定の場となっていることが明らかになったそうです。

運河内のアマモの分布面積は拡大しており、人工干潟の砂地でのアマモの分布の拡大も期待されています。加えて、人工干潟内ではアサリが高密度で確認され、大きさもさまざまだったことから、この海域内で繁殖していると思われます。

さまざまな藻類やそれを食べる動物が増えていくことで、炭素固定機能は増加するはずです。また、アマモの分布面積を拡大させることができれば、海面のCO2の吸収の促進にも繋がると考えられます。

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▲ 調査で採集したアマモ

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▲ 調査で採集したアサリ

活動中の困難や苦労

最も苦労したことは、昼夜を通した24時間連続調査だったそうです。1時間ごとに観測機器を用いた水質調査と同時に採水して、ろ過・分析をおこない、さらに並行してアサリの調査や藻類の光合成や呼吸実験などがおこなわれました。

この結果、非常に有益な研究データが得られました。 

今後の活動展望

都市開発の影響で、大阪湾沿岸部では自然海岸の一部である干潟や藻場は少ししか残っていません。しかし、神戸という都市部の運河で、アマモの生育やアサリの生息が確認され、その数が増加しています。人間活動が活発な都市部において運河の生態系が修復、再生していることは驚くべき現象です。

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今後は、兵庫運河に人工干潟やアマモ場が整備されたことで、その成果が海流に乗って海のネットワークを通して、周辺の海域にも波及していくことが期待されています。

人工干潟やアマモ場の整備は、気候変動への適応や海の生態系の回復・保護に大きく寄与する可能性があります。しかし、都市沿岸部の運河における生態系の解明や整備の効果の継続性については長期的なモニタリングによって、生物の分布や個体数、水質浄化などの機能の効果を詳しく把握していく必要があるとのことです。

小学生との関わり

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▲ 環境調査後の子どもたちとの写真

兵庫運河のすぐ横には小学校があります。人工干潟は、小学生が地元の環境を学べる身近な環境教育の場としても活用されてきています。

小さいころから地元の環境にふれあい、自然再生の成果や生態系の変化についての情報を広く共有し、地域の関心や関与を高めることで、より持続可能な取り組みを推進することができ、地元への愛着が深まると考えておられます。

 

その他本法人の環境パフォーマンス・環境活動は「公立大学法人大阪 環境報告書」をご覧ください。

https://www.omu.ac.jp/about/efforts/environment/

該当するSDGs

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