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2023年6月23日
内在性ウイルス様配列の新たな検出法と内在性ウイルス様配列/宿主遺伝子の融合遺伝子の発見に関するGarciaらの論文がVirus Evolution誌で公開されました!
内在性ウイルス様配列の新たな検出法と内在性ウイルス様配列/宿主遺伝子の融合遺伝子の発現の発見に関するGarciaらの論文がVirus Evolution誌で公開されました!(オープンアクセスです)
The hidden diversity of ancient bornaviral sequences from X and P genes in vertebrate genomes
Bea Clarise B Garcia, Yahiro Mukai, Keizo Tomonaga, Masayuki Horie
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内在性ウイルス様配列(Endogenous viral element: EVE)は真核生物ゲノムに存在するウイルス由来の遺伝子配列の総称です。EVEは過去に感染したウイルスのゲノムあるいはその一部が生物のゲノムに組み込まれることによって生じます。EVEの多くは数百万年以上前に宿主ゲノムへと組み込まれており、過去のウイルス感染の「分子化石」として、太古のウイルスを知るための貴重な材料となります。また、一部のEVEは生物において生理的な機能を持つことも知られており、ゲノムの新奇性獲得という観点からも重要な研究対象です。
これまでのEVEの検出は配列類似性検索のみに依存してきました。EVEを検出する際には、生物のゲノムを対象として、ウイルスの配列に類似した配列を探索します(専門用語を使うと、ウイルスの配列をクエリー、生物ゲノムをデータベースとした配列類似性検索(tBLASTnなど)を行います)。そのため、有意な配列類似性が見られないEVEについては、たとえ生物ゲノム中に存在していたとしても検出することができません。
私たちは以前より、RNAウイルスであるボルナウイルス由来の遺伝子配列(Endogenous bornavirus-like配列:EBL配列)について、網羅的な検出を行ってきました。ボルナウイルス由来の配列の内在化は、ウイルスのmRNAが宿主細胞のレトロトランスポゾンであるLINE-1によって逆転写されることによって起こると考えられています。ボルナウイルスはN、X、P、M、G、Lという6つの遺伝子を持っており、これらのうち、N、M、G、L遺伝子に由来するEBL配列は比較的多く検出されるのに対し、X/P遺伝子に由来するEBLはほとんど見つかっていません。なぜX/P遺伝子に由来するEBLのみほとんど見つからないのでしょうか?私たちはX/P遺伝子に由来するEBL配列が存在するが、現存するウイルスのX/P遺伝子との間に有意な配列類似性が見られないため検出できないと考え、解析を行いました。
本研究では、ボルナウイルスのmRNA発現の際に起こる「リードスルー」という現象に着目し、新たなEBL配列の検出法を開発しました。その結果、コウモリやげっ歯類のゲノムからX/P由来のEBL配列と考えられる配列を検出することができました。さらに、X/P由来のEBL配列の詳細な解析を行い、コウモリゲノムに内在化したX/P配列とコウモリ由来の遺伝子ZNF451が融合遺伝子となって発現していることを見出しました。
本研究によって得られた成果は、BLASTなどの配列類似性検索のみに依存していたこれまでのEVEの検出方法について一石を投じ、今後のEVE研究に極めて有用であるとともに、生物とウイルスの共進化の理解の一助となります。
本研究の意義はEVEを研究している方以外には伝わりにくいのですが、BLASTのような配列類似性検索のみでは検出することのできないEVEを検出するというアイディアを着想し、種々の状況証拠を積み重ねてそれを実証した初の事例になります。