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2023年5月19日

Published in Veterinary Pathology: Effect of LPS on liver homeostasis and diseases

 大学院生の高見さんの実験論文がVeterinary Pathology誌に掲載されました。

Takami Y, Tanaka M, Izawa T, Kuwamura M, Yamate J
The effect of lipopolysaccharide on liver homeostasis and diseases based on the mutual interaction of macrophages, autophagy, and damage-associated molecular patterns in male F344/DuCrlCrlj rats.
Vet Pathol (in press). https://doi.org/10.1177/03009858231173364

 本論文は、腸内細菌叢を構成するグラム陰性細菌の細胞壁構成成分である内毒素リポポリサッカライド(LPS)をラットに投与することで、肝細胞の傷害と保護という二面性の作用機序の一端を明らかにした研究になります。

 大腸菌症では多量のLPSが腸管から門脈を介し肝臓へ流入し、肝障害を惹起することが知られています。一方で、少量のLPSをラットに事前投与すると、その後の化学物質による肝障害が抑制されることが本教室の先行研究により示されています。すなわち、LPSにはその用量に依存し二面性の作用(肝細胞傷害および保護)があることが示唆されました。しかし、そのメカニズムについては不明でした。

 本研究では、高用量および低用量LPSを投与したラット群間で、肝臓におけるマクロファージ、細胞内の自己分解浄化機能であるオートファジー、傷害細胞から放出されるダメージ関連分子群(DAMPs)の一種であるHMGB1の動態について病理学的に比較解析を行いました。その結果、低用量群では肝細胞に傷害は生じておらず、炎症抑制性M2マクロファージの活性化や肝細胞でのオートファジーの分解能の亢進が見られました。これに対し、高用量群では肝細胞の凝固壊死が見られ、組織傷害性M1マクロファージの増数やオートファジーの分解異常、さらに傷害細胞の核内タンパクHMGB1が細胞質へと移行する像が観察されました。

 以上より、低用量LPSは炎症抑制性マクロファージやオートファジーを誘導することで肝細胞に保護的に働くのに対し、高用量では細胞傷害性マクロファージの出現やオートファジー異常等により肝細胞が傷害され、さらにDAMPsの放出により炎症が促進した可能性が示唆されました。この研究結果から、肝障害の評価において腸内細菌由来LPSの影響を考慮する必要があることが示されました。