都市域からの熱・水蒸気・二酸化炭素・メタンの放出量の高精度評価に関する研究
植山雅仁
研究背景
人間活動に伴う環境問題が社会的に関心となり、温室効果気体の動態や都市の暑熱環境に注目が集まっています。 そのため行政・企業などが中心となって低炭素社会の実現や暑熱環境の緩和に向けた取り組みがなされつつありますが、大量の温室効果気体の放出源と考えられる大都市における温室効果気体(CO2・CH4)放出量や熱の動態を評価するための実測研究は世界的に見てもほとんどありません。 以上のことから都市における人間活動と温室効果気体放出量との関連の解明、また、今後の取り組みの策定やその効果についての評価に大きな不確定性を残しています。 本研究では、都市域における温室効果気体の放出量および暑熱環境を、連続測定により評価する事を目的として実施しています。
堺市における観測
堺市は大阪府第二の都市であり、人口が80万人を超える世界的な大都市です。 堺市は2006年に政令指定都市に移行したことから今後の街の発展が予想されます。 また、平成21年1月に国の「環境モデル都市」に認定されたことから、温室効果気体の削減を含めた環境問題に対する取り組みがこれまで以上に積極的に実施されることが予想されます。 中長期的に堺市におけるCO2や熱の交換量をモニタリングすることが重要であるため、 堺市から市役所高層館屋上の使用許可をいただき、共同研究という形で2008年の夏季より観測を開始しました。
野外観測
堺市役所高層館
地上111 m の市役所高層館において、熱・CO2・CH4交換量などの気象観測を2008年夏季より測定しています。 市役所は市の中心部に位置するため、大都市中心部における典型的な熱・CO2・CH4交換量の特徴が得られることが期待されます。
10年以上に渡って長期の連続観測を実施することで、温室効果気体の日内変動、季節変動、長期の変化傾向を評価することができます。
これまでの結果から、都市域では交通量が多い日中にCO2が多く排出され、またその排出量は、休日よりも平日の方が高くなることが分かってきました。堺市では、春や秋よりも夏や冬にCO2排出量が高い季節性を持つことも分かってきております。
今後の温室効果気体の排出削減のための施策を実施していく中で、実際に排出量が減っていくのかをモニタリングしていくことが非常に重要だと考えています。
左写真:堺市役所高層館屋上における微気象観測の様子
大阪府立大学 B11棟屋上
郊外地域における熱・水蒸気や温室効果気体の交換特性を知るために、堺市郊外に位置する大阪府立大学・生命環境科学部屋上において同様の微気象観測を2008年の冬季から実施しています。
左写真: 大阪府立大学 B11棟屋上における微気象観測の様子
大泉緑地
都市緑地のCO2吸収機能を評価するために2015年2月~2016年1月の1年間について、CO2交換量を大泉緑地において測定しました。
都市緑地は、植物生育期では弱いCO2吸収を示しましたが、一年間の積算値ではCO2の排出源であることが分かりました。
データ公開
観測データは、次のリンクからダウンロードできます。
これまでの研究成果
Ueyama, M., Mitake, Y., Yamaguchi, K. and Hamotani, K., 2011: Micrometeorological measurements of heat, water, and CO2exchanges at an urban landscape in Sakai, Japan. AsiaFlux Newsletter, 32, 9-12.
研究資金
平成21年度 若手研究 H21.10~H22.9 (財団法人 日本生命財団), 「大都市域からの熱・二酸化炭素の放出量の高精度評価に関する研究」
2014年度環境研究助成 H26 (公益財団法人 住友財団: 助成番号 143205), 「大規模都市緑地のCO2吸収量の連続測定」