大気ー森林間におけるメタン交換の評価
植山雅仁
研究背景
メタンは二酸化炭素(CO2)に次いで温暖化に寄与する気体であり、その地球温暖化係数はCO2の21倍と非常に強力な温室効果気体です。 現在の大気中のメタン濃度は1774ppbであり、工業化以前の値の倍以上にまで上昇しています(IPCC, 2007)。 大気中のメタンの濃度の増加率は、1980年代初期までは年率1%強であったとされています。近年はその増加率が低下傾向にあるとされています。 大気中のメタン濃度は、人為起源により排出されたメタンの総量が除去量を超えたときに増加します。 メタンの主要な吸収源は大気中の化学反応(ハイドロキシラジカル(OH)による酸化)ですが、森林などの好気性土壌においても多くのメタンが酸化作用において分解されていると考えられています。 これまで、森林におけるメタンの吸収・放出量の定量的な評価については、チャンバー法や土壌ガス拡散法を用いたプロットスケールでの観測が実施されてきました。 これまでのそれらの研究から、森林土壌におけるメタンの交換量については、嫌気性土壌における放出と好気性土壌における吸収との微妙なバランスで決定しているため空間的に非常に非均一である事が明らかとなってきています。 また、近年では植物の葉からもメタンが放出されているとの研究報告もあり(Keppler et al., 2006)、プロットスケールでの計測から森林のメタン収支を評価することが難しいことが指摘され始めています。 そこで、当研究室では群落スケールでの森林におけるメタン収支を定量評価するために、微気象学的手法を用いてメタン交換量の連続的計測・評価を行っています。
富士北麓フラックス・リサーチサイト
メタンフラックスの計測は、国立環境研究所・地球環境研究センターとの共同研究において実施されています。 観測は、山梨県富士吉田市に位置する富士北麓フラックスリサーチサイトにおいて行っています。 この研究サイトでは、森林生態系のCO2吸収機能、微気象、土壌・樹木等の調査が様々な研究グループの連携によって実施されています。 当研究室では、2006年よりこの研究施設において、メタンの交換量の計測手法の開発に関する研究を実施しています。
富士北麓フラックス・リサーチサイトからの風景:35 mの観測塔の頂上からは富士山を望むことが出来ます。
微気象学的観測システム
メタンに関しては、CO2などのように高精度に微気象学的手法の適用可能な分析計が開発されていません。 そこで当研究室では、分析精度が最適でない分析計を用いても交換量が計測可能な分析システムを開発しました(Ueyama et al., 2013)。 この手法は、双曲線簡易渦集積法(Hyperbolic Relaxed Eddy Accumulation Method; HREA法)という手法で、これまで測定が困難とされてきた微量気体の交換量を評価可能な手法として注目されています。 富士北麓サイトでは、このHREA法によるシステムに、最新のレーザー分光法を用いたメタンガス分析計を組み込み、群落スケールのメタン交換量を、2011年秋から長期連続測定しています。
チャンバー法
微気象学的手法による生態系スケールでの観測に加えて、チャンバー法によるメタン交換量のモニタリングも実施しています。林床にチャンバーを設置することで、森林土壌中のメタン酸化菌によるメタン酸化速度を計測することができます。これまでの観測から、森林土壌は、地温がより高く、土壌水分がより少ない条件でメタンを多く酸化・吸収することが分かってきました。富士北麓サイトでは、チャンバー法による観測とHREA法による観測で、一貫した吸収速度が計測されていることも分かっています。
これまでの研究成果
研究資金
科研費 若手研究A H23.04~H26.03 , 「レーザー分光器を用いた高精度連続観測による森林におけるメタン交換量の評価」
科研費 若手研究A H27.04~H29.03 , 「高精度観測ネットワークに基づく森林のメタン交換量とその時空間変動の解明」