作物の安定生産と土壌環境の保全
作物の安定多収と環境保全を両立する栽培学研究
化石燃料や地下資源を利用して生産される化学肥料は、農業生産に不可欠な資材です。しかし、作物の生育にとって最も重要な元素である窒素やリンは地球レベルでの循環に問題があり、現状の肥培管理が今後も続くと食料供給面や環境面で危機的な状況に陥る可能性があります。そのため農業分野においても化石資源依存からの脱却を目指した技術開発が現在求められており、研究室では作物に関する基礎的研究や生産現場での研究を通して、持続的な生産性の高い作物栽培技術の確立を目指しています。
作物の根系発達や微生物共生に着目してリン吸収能の向上を図る
リンは作物が生育する上で欠くことのできない養分ですが,リン肥料の原料となるリン鉱石は有限な資源であり、近年リン肥料価格は上昇傾向にあります.また世界的にみるとリンが欠乏している農耕地は数多く,その大部分は開発途上国が占めています.世界の主要作物おいてリン獲得能に優れる品種を作出することは重要ですが,その上で根の機能に着目することは重要です.現在は,様々なリン獲得機構の視点からダイズの低リン耐性を高める研究に取り組んでいます。
緑肥作物の活用で地力の向上を図り、環境にやさしい低投入型の農業を実現する
緑肥作物は土壌への有機物補給,窒素補給(マメ科緑肥の場合),有用微生物の増加,有害な線虫や病原菌の減少など様々な効果が期待できます。これらの機能は栽培する緑肥作物によって異なりますが,緑肥作物をうまく利用することによって化学肥料や農薬の使用量を減らすことができ,作物生産における環境負荷を軽減することができます.研究室では緑肥作物を活用した減肥効果に関する研究に取り組んでいます.
作物を育む土壌の機能を十分に発揮させ、安定的な作物生産を目指す
土壌の性質は化学性・生物性・物理性に分けることができます.化学肥料に依存して発展した近代農業から有機肥料主体の農業へのシフトが望まれる現在においては,土壌の化学性に加えて,物質循環に重要な役割を果たす生物性、特に土壌微生物に着目して研究を進めていくことが重要です.土壌の生物性は栽培する作物や土壌に投入される有機物によって変化します.この変化は栽培する作物へ影響することが予想されますが,十分に把握されていないのが現状です.土壌微生物が作物に及ぼす影響は共生菌や病原菌など直接的に作物に働きかける場合と有機物の分解など物質循環によって間接的に作物に影響する場合に分けられます.これら両者の側面から微生物の群集構造と作物生産との関わりについて研究しています.
大阪産エダマメの安定生産に向けた根粒菌の研究
大阪府八尾市は近畿圏内トップクラスのエダマメの収穫量を誇る一大産地として知られており,なにわ特産品として販売されているエダマメは卸売市場からも高く評価されています.八尾産エダマメのブランド価値をさらに高め,販売を強化していくためには生産量の増大と品質の安定化が求められます.現在はエダマメに感染する根粒菌に着目して根粒菌の多様性や有用根粒菌の探索を行い、収量性との関連性を評価しています.
未利用資源の活用による環境保全型農業の推進に関する研究
昨今の化学肥料の原料に係る国際価格の高騰に伴い生産者の経営への影響が懸念されています。肥料を海外に依存する日本にとってこの状況は食料安全保障の危機として認識すべきです。したがって、土壌の改善や肥料費の低減のため、国内で調達可能な産業副産物原料をより一層有効利用していく必要があります。現在は、分離大豆タンパクを製造する際に副生される大豆ホエイに着目して、これまで農業資材として未利用であった大豆ホエイの肥料代替効果を検証しています。
水田転換畑土壌におけるクラスト(粘土皮膜)形成の抑止に関する研究
灰色低地土では,土壌と大気のガス交換を妨げる土壌表面のクラスト(粘土皮膜)層の形成によって作物の出芽阻害だけでなく,亜酸化窒素の生成の助長,有機物分解時に発生するガス蓄積による根の呼吸阻害などの問題が起こります.これらの問題解決に向け,クラスト形成を抑止するための有機物の施用方法を検討し,亜酸化窒素や二酸化炭素のガスフラックス,土中の低級炭化水素の発生量,脂肪酸組成解析による微生物バイオマス量,作物側の根の呼吸活性や根系発達などの応答反応を評価することで有機物施用の効果を検証していきたいと考えています.
耕作放棄地への導入に適した資源作物の探索および栽培の実証研究
耕作放棄地で作物を栽培するにあたり,地域や環境にあった作物種の選択,それらの作物の収量性や地力への影響,土壌微生物生態や雑草害などについて不明な点が多々挙げられます.本学が位置する堺市においても耕作放棄された農地が多く存在することから,現在,堺市の太平寺地域の耕作放棄地を例にソバや景観作物を輪作体系に取り入れた栽培試験を実施しています.耕作放棄地におけるこれらの栽培特性に関する知見を集積し,地域の農業振興に貢献したいと考えています.