抗菌薬によって起こる副作用
抗菌薬は、細菌感染症に不可欠の治療薬ですが、いいことばかりではありません。抗菌薬の適正使用が求められる理由は、耐性菌が出現すること以外に以下の副作用が起こるためです。
- 常在細菌叢の破綻
我々の体は無菌ではなく、無数の細菌と共存しています。表皮には表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、腸内には大腸菌を始めとする腸内細菌がいます。これらの細菌をひっくるめて、常在細菌叢(じょうざいさいきんそう)と呼んでいます。叢は「くさむら」とも読みます。英語では、「お花畑」を意味するflora(フローラ)と呼びます。つまり、常在細菌が、お花畑のように広がっているという意味です。
これらの細菌は、病気を起こす病原細菌と異なり、ヒトの体(宿主)に悪い影響を及ぼすどころか、なくてはならない存在で、外からの病原細菌の侵入を防いだり、免疫の調整を行ったりしています。近年では、癌や生活習慣病、精神疾患など、様々な疾患に関連していることが分かっています。このように、宿主にとって、いわば有用な細菌ですから、抗菌薬によって失われると、宿主にも悪影響があることはわかると思います。
皆様も経験があるかもしれませんが、抗菌薬を飲むと下痢をする人がいます。これが、まさに常在細菌叢が破綻しかけている状況です。可逆的なので、抗菌薬を中止することで、通常は元に戻ります。しかしながら、長期(数週間から数か月)に抗菌薬を投与することで、戻りにくくなったり、致命的な場合もあります。以下に示す、Clostridioides difficile感染症もそのような致命的な副作用の一つです。 - Clostridioides difficile感染症(CDI)
- Candida(カンジダ)血症
- 腎機能障害
腎毒性ともほぼ同義です。抗菌薬の多くは、肝代謝もしくは腎排泄で、腎排泄の抗菌薬の場合には、腎機能障害を来すことがあります。また、腎機能障害があると、抗菌薬の排泄が遅延し、さらに腎機能を悪化させる原因となります。腎毒性がよく知られているのは、グリコペプチド系薬(本ゲームではVCM)やアミノグリコシド系薬(本ゲームではABK)です。そのため、本ゲームでは、VCMとABKで腎毒性が起こる設定にしています。カルバペネム系薬や一部のβ-ラクタム系薬も腎毒性が知られていますが、VCMやABKほどではないありません。
腎機能は、臨床的にはGFR(糸球体濾過率)で評価されます。しかし、厳密なGFRを求めるのは面倒なため、簡易的にeGFRを用います。eGFRとGFRは概ね比例しますし、値も大きく変わらないことから、本ゲームではGFRを採用しています。実際の臨床では、GFRがある程度以上低下すれば、透析という方法もありますが、本ゲームでは透析までを想定していません。 - 肝機能障害
フルオロキノロン系やマクロライド系薬など、肝臓で退社される抗菌薬は、ときに肝機能障害を起こします。また、β-ラクタム系薬のほとんどは腎排泄ですが、例外的にセフトリアキソンは肝代謝であるため、肝機能が元々悪い場合にあセフトリアキソンが使用できないことがあります。 - 造血障害
骨髄抑制ともほぼ同義です。骨髄抑制を来す抗菌薬はあまりありませんが、LZDは骨髄抑制を来すことが知られています。3系統、つまり、白血球、赤血球、血小板の3血球が低下することもありますが、中でも血小板の減少に注意が必要です。
本ゲームでも、LZD使用中は血小板減少に注意するように警告しますし、血小板が一定以上に低下すると、治療失敗となる設定にしています。なお、本件と直接関係はありませんが、LZDは静菌的(菌を殺すのではなく、菌の増殖を抑制するのみ)な抗菌薬であるため、白血球数が少ない症例では、有効性が低くなるように設定しています。