Prospects
Department of Legal Medicine
Osaka Metropolitan University Graduate School of Medicine
The Immediate Objective
当面の目標
法医解剖の精度・客観性向上を図り,社会の理解を深めるためには,まず、各施設単位でルーチンワークを行うためのサブスペシャリティを充実・機能させる必要がある.さらに,その実績が“普通”の社会貢献として適正な評価を受けることができるように,言い換えると,余りにも“死因究明”を強調してきたがために植えつけられた法医解剖に対する誤解や偏見を排するために,私たちがファシリテーターとして積極的に社会に情報発信していく必要がある.
特に,鑑定人個々の個人的・経験則的な“裁量”を極力排するため,法医病理診断の基本的概念を基盤として死後画像検査,法医生化学・分子病理学や中毒学などの客観性の高い検査法を駆使して複雑な死の病態を“可視化”(visualize)し, 法医解剖所見を総合的・包括的に分析することは社会的に重要である.
なかでも死後画像診断と生化学・分子病理学の系統的・協調的発展は,形態学的・病態生理学的診断根拠の客観的な“可視化”に有用で,死因診断と死亡過程の評価を行うための“精密かつ精度の高い剖検”の実践における最小必要要件である.
Prospects
展望
人権擁護と社会的危機管理に広く関わる法医学において,個人の人権と社会の利益・公平性を守るという観点から,医学・医療およびその関連システムのあり方を考え,医療危機管理学,医事法学,賠償科学や医療・生命倫理学などの目的が重なり合う様々な関連学術分野と連携を保ちながら,法医実務を通じて,包括的・学際的に社会に還元していくことが,法医学の基本理念であり目標でもある.
そのためには,各施設における法医実務でえられた学術的情報やノウハウが医科学の進歩を反映した共有性の高いものでなくては“科学的で公正な医学的判断”として受け入れられようはずがない.その前提となるのは,やはり,生化学・分子病理学を含めてアップデイトされた法医病理学と実践的法医中毒学である.中毒学の重要性は“失敗”が起こるたびに再々指摘されてきたが,根本的改善の気配は一向にみられない.
これらの課題にどのように対応していくのかを私たち自身も社会的にも今十分に考える必要がある.死因究明に対する特異な興味を持たせたり,医師であれば誰でも検死や損傷の診断が一様にできると思わせたりするような医学教育は好ましくないし,研究では“人”の剖検データの医療・社会への還元を念頭においた立案が重要である.
鑑定においては,成書を鵜呑みにした自己裁量を排し,自他の検証・研究による最新の客観的症例分析データを踏まえた専門家としての実務経験の応用を“科学的で公正な医学的判断”の基盤とし,そのノウハウの伝承を教育と実務研修の理念とすべきである.
Challenges
課題
今後,地域社会の危機管理と被害者支援と冤罪防止の観点から“司法制度を支える基盤”としての法医学を整備・システム化して効率的に機能させる必要性がある.具体的には,①法医解剖に関する業務を社会的責任あるいは社会貢献の1つとして遂行できるような社会制度の確立,②そのために必要な施設,設備・備品とスタッフを整備,③実務実績に応じた財政の確立,④その実績が社会的貢献として適正な評価を受けることができるように情報発信していくことを重点課題とすべきである.
また,法医解剖手法の標準化だけではなく,個々の施設における法医放射線医学,病理組織学,中毒化学,生化学,分子生物学や微生物・血清学などの剖検関連検査体制の確立とルーチンワークは実務研修,自己評価,生涯学習と第三者評価のために不可欠である.その上で将来は国際標準に沿った認証制度の導入を目指すべきである.