相互理解を深めるには、まず、相手の文化の言葉で話すこと
防災・復興政策をはじめ、私が専門としている分野は現場ありきのものばかりです。研究室だけで完結させられるものではありません。研究するにあたりベースとしているのは、まず、いろんな人に会うこと。そして、自分の文化の言葉で話さず、相手の文化の言葉で話すことです。
出来事を多角的に見る際に、自分の理解や方法が唯一の正解では決してありません。それを知るためにも、さまざまな立場の人に会ってよく話を聞くことが大切です。その内容を正しく理解し、こちらからも正しく伝えるためには、一つの問題でも、議員や行政、NPO、メディア、民間企業、一般の方々などに対して、言葉を使い分けるようにしています。さらには議員や行政の中でも、国会議員、地方議員、中央省庁の職員、地方自治体の職員と、それぞれに対して話し分けることを常に意識しています。
学者の常識は世間の非常識です。学者に限らず、みんなそうでしょう。民間企業の常識もNPOの常識も、世間にとって非常識なことは山ほどあります。そもそも背負っている文化が違うのです。さらには、それぞれの立場や組織上のポジションによって、考え方も違えば捉え方も違う。どちらが合っているか合っていないかの話ではないわけです。それを理解するよう最大限に努めています。
同じ言葉でも、所属する組織によって違う意味で活用されていることも少なくありません。さまざまなものが自分とは異なることを理解して、人と対峙する必要があります。そこが鍛えられたのは、やはり東日本大震災の現場です。一つの事業を立ち上げるにも、短期間でありとあらゆるセクターの人と話しました。自分の言葉ではない言葉で組み上げていく経験を積めたのが、すごく大きかったですね。
災害の問題一つとっても、多様な組織のいろんな人が関わります。全員がなんとかしたいと集まっていて、その思いにずれはないのですが、立ち位置が違うとずれてくる。みんな真面目だけど、真面目なだけにボタンを掛け違えると大変な喧嘩になることもあるでしょう。施策をうまく進めるために、それぞれに抱えている文化や事情が違うことを理解することが大切です。
そこにたとえば、「こう見たらみんな一緒に考えられるよね」といった指針を提示するのは学問側がやるべき仕事です。言葉や焦点を狭めて一つの方向性を示すのは、アカデミックな人たちの大事な役まわり。ただ、みんながどう考えているのかを理解しないと、適切な言葉も当てはめられません。どういう理論で考えるべきかを現場の言葉に置き換えながら伝えれば、納得も得やすくなる。さらには新しい事実の発見にもつながり、課題解決に向けて前進できると考えています。
被災者をワンストップで個別に支援する、「災害ケースマネジメント」の必要性とは
プロフィール
文学研究科 人間行動学専攻 准教授
臨床の社会科学者。博士(文学)。専門は人文地理学、都市地理学、サードセクター論、防災・復興政策。東日本大震災発災直後からパーソナルサポートセンターにて仙台市と協働し、被災者生活再建支援事業・生活困窮者自立支援事業を立ち上げ、現在は理事。最近の主な委員として復興庁「多様な担い手による復興支援ビジョン検討委員会」ワーキンググループメンバー、熊本市「復興検討委員会」委員などを務める。知事特命のアドバイザーとして石川県の災害対応に助言。
研究者詳細
※所属は掲載当時