知りたい、謎を解き明かしたいという思いが原点
私は静岡県浜松市出身で、幼い頃は常に、東海地震が起こると聞いて育ちました。そのため、なぜ地震が起こるのか明らかにしたいと小学生の頃から思っていました。幼少期の思いから大学院修士まで進んだのですが、博士課程にまで進むかどうかは悩みました。研究は面白いとはいえ、自分の人生をそこに“全振り”するかどうか、22、3歳の若者にはなかなか判断できません。でも、一度きりの人生、保守的にならず、自分が感動を味わえることに一生を費やしたい。そう考えて、いただいていた就職内定を断り、内定先や当時の指導教官にも怒られながら、背水の陣で博士課程を選びました。
博士課程2年目のときに、IODP(国際深海科学掘削計画)という多国間科学研究共同プログラムに参加し、アメリカの掘削船に乗りました。当時取り組んでいた分野とは直接的には関係のないものでしたが、20年経ってみると実は、海底を掘削して震源の物質を調査する現在の研究に近い。あの経験が今に役立っていると感じています。学生にも「すべての経験には意味がある、研究を展開していくときに有機的につながっていく」と話しているのです。自分の研究をするだけではなく、周囲の人たちの研究にも首をつっこんでみるなど、学術的な交流も意識しながら研究を進める方がよいと思っています。
研究のモチベーションは、まずは興味を持ったことや謎を自分の手で解き明かしたいという知的好奇心です。そこでわかったことが人類や他の生物に役立ち、未来に貢献する。それが研究の醍醐味であり、研究者としての使命だと思っています。「知りたい」という思いから、人類の未来や宇宙全体の理解につながっていくのが魅力です。
今、NASAを中心に火星移住計画が行われているのを聞いたことがあると思います。それは火星が最終目的地なのではなく、火星をテストフィールドにして太陽系以外の地球型惑星を人類が住めるようにテラフォーミングしようというもの。一説には10億年後とされている地球滅亡に備えて、今から研究しようとしているのです。そんな遠い未来のことを考えてプロジェクトを走らせている人がいるのですね。それに比べれば、地震予知は数百年後には何らかの成果が出るでしょうか。「知りたい」という思いを原動力にして、地震の謎の解明に向けて取り組んでいきたいと思います。
地震は一種の物理現象。震源域の岩石を分析してわかることとは
プロフィール

理学研究科 地球学専攻 教授
理学研究科 地球学専攻 教授
博士(理学)。筑波大学卒業、東京工業大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻修了。独立行政法人海洋研究開発機構や大阪大学大学院などを経て、2022年から現職。研究分野は固体地球科学。主に南海トラフ地震やテクトニクスについての研究を進め、地域に根ざした防災・減災活動も行う。著書に『基礎地学実験:新装版』(2020年、学術図書出版社/共著)など。NHKスペシャル『MEGAQUAKE 巨大地震 2021』などメディア出演も多数。
※所属は掲載当時