すべての人が幸せに暮らせる社会を考えるのは魅力的
私が社会福祉学に興味を持ったのは中学3年生のときです。北海道から大阪に引越したのですが、私が通っていた北海道の学校では習うことがなかった被差別部落や在日朝鮮人に対する差別について授業で知り、天と地がひっくり返るほど驚きました。日本は民主的な国家で人はみんな平等だと学んできたのに、いまだに理不尽な差別や偏見がある。そのことにショックを受けたと同時に、無知は差別や偏見を助長することにつながると感じ、何も知らずのほほんと暮らしていた自分も許せませんでした。
このことをきっかけに、どうすればすべての人が幸せに暮らせる社会をつくれるのかと考えるようになりました。そして、大学に進むにあたって社会福祉学部を選んだのです。
最初は介護保険制度などの研究を行っていましたが、大学院生の一時期に家族のケアをした経験から変わりました。基本的には親がケアをしていたとはいえ一時期は大変で、授業を休んだり、発表を代わってもらったり、アルバイトの時間を変えてもらったり。ふと気づくと謝ってばかりいて、「私はそんなに悪いことをしているの?」と感じました。家族がケアを必要としたり、それに対応することは誰にでもあると思いますが、こんなに謝り続けたり、嫌な顔をされたりするものなのでしょうか。家族のケアをしている人は同じ経験をしているのでは?と家族介護の問題に関心を持ち、さらにヤングケアラーの研究へと進みました。
私は、家族のケアをするという選択肢も、しないという選択肢もどちらも認められるべきで、どちらを選んでも人々が当たり前に暮らせる社会であるべきだと考えています。ケアをする選択をした人がペナルティを受けるのはおかしいですよね。
家族が一定のケアをすることを前提としている国は結構あり、そうした国ではケアラーへの支援もあります。例えば、イギリスにはケアラー支援法があり、ケアラーのためのカウンセリングサービスなどを受けることができます。ドイツでは、家族がケアをする場合には、家族に対して介護手当が支払われます。日本では、介護保険があっても家族が一定のケアをしないと回らない状況であり、家族がケアする場合の支援制度も家族へのサポートもなく、とても中途半端。そのことに違和感を覚えて、研究を続けています。
家族介護者やヤングケアラーなど扱っているテーマ自体はしんどい問題も多いのですが、最終ゴールは人々の幸せです。どうすればすべての人が幸せに暮らせるか。それを考えるだけでもワクワクするし、魅力的だと思いませんか。
家族のケアをする「ヤングケアラー」をどう捉え、どう向き合うか
プロフィール
現代システム科学研究科 現代システム科学専攻 教授
現代システム科学研究科 教授
博士(学術)。1993年日本女子大学人間社会学部社会福祉学科卒業、1999年同大大学院人間社会研究科博士課程後期満期退学、2017年金沢大学大学院で博士(学術)取得。大阪歯科大学医療保健学部教授などを経て、2024年より現職。家族介護者やヤングケアラーに関する研究を行い、2016年に日本初の子どもを対象としたヤングケアラーの実態調査を実施。特定非営利活動法人「ふうせんの会」を立ち上げ、さまざまなヤングケアラー支援を行う。著書に『子ども介護者―ヤングケアラーの現実と社会の壁―』(2021年、KADOKAWA)、『ヤングケアラー 先輩たちの体験談』(2023年、ポプラ社、共著)など。
※所属は掲載当時