OMU

祖父から受け継いだ、具体的な事象を学際的に探究する精神

私は民法を専攻し、特に“マンションの法”と呼ばれる法律の一つである区分所有法を題材として研究しています。従来は民法学で完結的に解釈が試みられていた問題を、手続法学、公法学、法政策学といった学際的観点からも考察することを目指しています。

マンションという具体を取り扱いながら、さまざまな分野に横断的にふれながら研究する面白さを教えてくれたのは、私の祖父です。祖父も民法を専攻する研究者で、私が法学部に進学しようと決めたのも祖父の強い勧めがきっかけでした。

法学の世界では、民法・憲法・刑法・行政法……といった形で法律ごとに学問分野が分かれていて、学会も別々に存在しています。研究に取り組むと「この条文はいつからあるのか」などを深掘りしていくので、どうしても一つの分野に集中してしまいがちです。でも祖父は、いつも私に「もっと問題を具体的に見ろ」と声をかけてくれました。自分が民法を専攻するとしても、扱う問題はいろんな分野とつながっていると気づかせてくれたと思います。

例えば「ある人が、Aさんに売ったはずの土地を、登記名義を移していないことをいいことに、Bさんの方に売ってそちらに先に登記名義を移してしまった。つまり、人に売ったはずの土地を別の人にも勝手に売ってしまった」という法律学の著名な問題があるのですが、法律を学んだばかりだと、「所有権がどこにいったのか」ということにばかり関心が向いてしまいます。というのも、民法に二重譲渡では登記を先に得た者が権利を得るという条文があるので、民法から順番に積み上げて学んでいく法学の通常の発想では、どうしてもそのことばかり考えるようになってしまうからです。

でも広く考えると、まず刑法では犯罪にあたりますし、刑事訴訟法では「どうやって警察官が認知して逮捕するか」という観点になります。さらにもっと広く、政治学や社会学、経済学の問題として扱っていくと、「なぜそんなことをする人が現れたのか。そうならないための制度はどうあるべきか」といった視点も生まれてきます。法学は人文社会科学の一つですが、具体的事象とつなげて考えられるのが特徴であり、そこが法学者の頭の使いどころではないでしょうか。

さまざまな学問分野の視点を取り入れると、見え方が全く変わってきます。そして考えがどんどん深まっていき、具体的な解決策にもつながっていくわけです。それが私にとっての研究の面白さであり、モチベーションの源でもあります。

私はマンションを研究テーマとして扱ってきたおかげで、多岐にわたる分野の研究者の方たちと交流する機会に恵まれてきました。祖父が私に教えてくれたように、これからも具体を扱いながら学問分野を横断して研究していくことの魅力を、広く発信していきたいと考えています。

プロフィール

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法学研究科 准教授

吉原 知志

法学研究科 准教授

博士(法学)。2012年京都大学法学部卒業、2014年京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了、2017年京都大学大学院法学研究科法政理論専攻博士課程後期修了。香川大学法学部准教授を経て、20224月より現職。区分所有法、共有、団体を題材として、財産法の解釈問題、主に不動産の集団的な管理方法のあり方を研究している。

研究者詳細

※所属は掲載当時

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