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新たなテクノロジーの導入を通して自分の研究を俯瞰する

私は、ヘイトスピーチやネット上での誹謗中傷を研究テーマの1つにしているのですが、こうした研究を行う上で、2000年代後半からのSNSの普及は非常に大きな影響がありました。中でも特にTwitter(現在のX)は、ある程度の偏りはありますが、投稿を見ることで社会の動きを大まかに把握できるという特性があり、これは他のSNSでは代替できませんでした。

ここ数年はこうしたTwitterのデータを計量的に分析する研究にも取り組んでいたのですが、202210月にイーロン・マスク氏がTwitterを買収し、研究者や企業に提供するビッグデータの金額を大幅に釣り上げたことで、この状況は終わりを迎えました。

しかし、終わるものもあれば始まるものもあります。同じ2022年の11月には、新しいツールとしてChatGPTが発表されました。ChatGPTをはじめとする生成AIが日本で話題になったのは2023年の春ごろからですが、これはSNSとはまた違う意味で、研究に対して大きなインパクトを持つと思っています。

生成AIがどのように研究で活用できるかはまだ模索中ですが、触っているうちに作業ごとの得意・不得意がある程度わかってきました。生成AIを情報検索や事実確認に使うのは不向きで、今はまだ人間の手でやったほうが早いというのが実状です。これはChatGPTのアルゴリズムの影響によるもので、逆に教科書的な一般論を書かせてたたき台にする、関連する論点の一覧を出させるといった使い方をすると効果を発揮します。

昨年は、東日本大震災および福島原発事故からの「復興」に関する国会議事録を分析したのですが、Webサイトからダウンロードしたデータを分析しやすいように整形する際には、ChatGPTが大いに力を発揮しました。実際にはその後の分析も生成AI経由でかなりのことができるようになっており、数年後には8割くらいの作業を任せられるようになるのではないかと思います。もちろんその際には自分が分析のベースとなる発想をしっかり持っていることが重要ですが、頭の中によいアイディアが浮かんでいるけど実際の作業までは手が回らないといった場合、生成AIは大きな役割を果たすようになるはずです。

テクノロジーが発達する中で忘れてはいけないのが、ツールに合わせて自分のやりたいことを曲げないということです。ツールは自分のやりたいことを実現するために使うものなので、まずこれまでの自分の研究法を自覚して俯瞰し、そこにどのようにテクノロジーを取り入れると「次」に行けるのかを考えることが重要です。現在大学では学生たちに生成AIをどのように使わせるかが議論されているところですが、この課題についてはむしろ学生と一緒によりよい活用法を考えていけたらと思っています。

プロフィール

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経済学研究科  准教授
明戸 隆浩

経済学研究科 准教授

社会学を専門とし、社会思想、多文化社会論を研究。近年はヘイトスピーチ、レイシズムなど、排外主義の問題に取り組む。著書に『アンダーコロナの移民たち』(共著、明石書店、2021年)、『テクノロジーと差別』(共著、解放出版、2022年)、『レイシャル・プロファイリング』(共著、大月書店、2023年)など。訳書にダニエル・キーツ・シトロン『サイバーハラスメント』(監訳、明石書店、2020年)などがある。


研究者詳細

                                 ※所属は掲載当時

 

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