私にとって研究は祈り
2007年よりフィンランドのヘルシンキ大学と共に進めてきた双生児研究ですが、現在は世界24カ国の研究機関との国際共同研究に発展しています。この双生児研究を開始した時期は、不妊治療の普及により多胎児が激増している時期でした。初期の不妊治療では、複数の受精卵を子宮に戻すことが多く、その結果、多胎妊娠が劇的に増加したのです。
研究を進める中で、多胎児の母親から多胎児育児の困難さについて切実な声をたくさん聞いてきました。多胎児の母親は本当に大変で、単胎児の母親と比較しても、睡眠時間は圧倒的に短く、もうろう状態の中で育児に追われる日々が続きます。たとえば、授乳中に子どもを下に落としてしまうなんてことは、一人の子どもを育てている状況では考えられないことです。でも、多胎児の母親にはそうしたことが起きてしまうのです。
精神的にも体力的にも限界の状態で子育てをされている多胎児の母親を調査していると、「本当に死ぬような思いで子どもを育ててきた」「ベランダから飛び降りようと思うことがよくある」といった声を聞くこともあり、私は「飛び降りないで」と、祈るような思いで研究を進めてきました。研究を通して社会にエビデンスを提示することで、こうした状況が少しでも改善されることを願いながら日々研究を続けています。
研究とは、遭遇した問題への深い思いやりと祈りを込めた活動なのだと感じています。
すこやかな親と子の関係のために。 フィンランドに学ぶ「信頼できるマタニティ・ケア」
プロフィール
大学院看護学研究科 看護学専攻 教授
看護学研究科 看護学専攻 教授
博士(医学)。専門は、公衆衛生看護学、公衆衛生学、疫学。
千葉大看護学部卒。2004年岡山大医学部教授、2007年大阪市立大学大学院看護学研究科教授を経て、2022年より現職。2021年より内閣官房孤独・孤立対策の重点計画に関する有識者会議構成員、孤独・孤立の実態把握に関する研究会委員。2007年からフィンランド・ヘルシンキ大の客員研究員となり、双生児研究法を用いた共同研究を開始。また、フィンランド国立健康福祉研究所などと共同で、フィンランドの母子保健(ネウボラ)に関する研究を推進。『ネウボラから学ぶ児童虐待防止メソッド』(医学書院)など著書多数。
※所属は掲載当時