アイデアをつくるコツは、事前に「答」を持たないこと
僕は作品をつくるときや、現場に行くときはいつも、何も答を持たずに行きます。答を持っていると、人はその答にあてはめてその場を理解しようとする。それではその答にとって都合のいいことは得られても、それ以外のことは見落としてしまう。そして、見落としてしまったことにも気づくことができない。自分の見たいようにみていると、自分のまなざしの外に出られないわけです。だから事前にできるだけ答を持たずに、何が発見できるのかを相対的に捉えていくことを心がけています。
物事を捉えたり何かを判断したりする上で難しいのは、どこに自分の立ち位置を取るかです。これがなかなか難しいのですが、僕は「3つの“り”」が重要だと思っています。それは「利」、「理」、「離」です。「利」は、誰にとってどんな利があるかの視点です。その利の範囲が狭いと、自分の利益や自分の欲だけを満たすことになる。利の範囲が広ければ、人類を救えるスケールまで行けるかもしれない。どこに利があるかを見定めるわけです。だから二つ目の「理」である、理想や合理、道理や真理が大事になります。つまりその時代、その場所での正しさを測るという視点が必要です。しかしこれだけだと今度はその正しさに合わないものを排除する怒りや分断が起こります。だから最後の「離」、つまり一度離れて判断を保留するという視点が大事になります。自分の損得、他人の損得、世界の損得からすらも一度離れて、客観的に何が起こっているかを見るということです。これが答えを持たないことですね。
この最後の「離」は難しいのですが、僕は「思考のメモ」を大切にしています。僕は主にフェイスブックの投稿をメモにつかっていますが、その時の自分のリアルな思考を書き留めていくことができれば、どんな方法でも大丈夫です。未来の自分がそのメモを振り返った時に距離が生まれて自分が相対化されます。人は何事に対しても「自分はできてるから大丈夫」と思いがちです。ですが人は驚くほど世界に向けている自分のまなざしに気づいていないのです。自分が大丈夫だと思っているときは、多くの場合、自分の都合の良いところだけを見ています。自分のまなざしの外に出て、自分を相対化することはそれだけ難しいことなのですが、この自分から離れるというプロセスを一度経ることで、良いアイデアが生まれる可能性が広がると思います。
分断をつなぎ変える まなざしのデザイン
プロフィール
現代システム科学研究科 准教授
博士(緑地環境科学)、トランスケープアーティスト。大阪府立大学大学院生命環境科学研究科博士後期課程修了。専門である風景異化論をもとに、空間デザインやコミュニケーションデザイン、インスタレーションアートの制作、映像制作やワークショップ、その他さまざまな企画やプロデュースなども行う。「霧はれて光きたる春」で第一回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。著書に、『まなざしのデザイン:“世界の見方”を変える方法』(2017年、NTT出版、日本造園学会賞)、宗教学者との対談『ヒューマンスケールを超えて:わたし・聖地・地球』(2020年、ぷねうま舎)、『まなざしの革命 : 世界の見方は変えられる』(2022年、河出書房新社)など。
※所属は掲載当時