はがきサイズのカードに記録する街や建築の面影
普段から気になった景色などを見ると、はがきサイズのカードにメモやスケッチを残すようにしています。これは私が学生時代、学芸員資格を取得するための博物館実習を受講していたときに、担当の先生から教えてもらった研究方法の一つです。私は外で大まかに描いたものを研究室に戻ってから水彩絵の具などで着色してアルバムにまとめているのですが、資料を残すということ以上に、頭の中の情報を整理するためにやっているというのが、取り組んでいる大きな理由ですね。
今はスマートフォンなどで簡単に写真を撮影できる時代ですが、見たものを記録するときに手を使うと内容が強く印象に残りますし、後で見返すとさまざまな気づきもあるので、学生たちにもやってもらっています。最初は不慣れで苦戦する人もいますが、やり始めると楽しくなってくるようで、私が言わなくても、街の風景や建物を思い思いに描いてくるようになりました。
先日も学生たちと富山県に見学旅行に行き、五箇山の重要文化財に指定されている住宅に入らせてもらったのですが、みんな建物の構造や寸法を一生懸命メモしていました。気合いを入れて精密に描く人もいれば、概要がわかるようなラフな感じで描く人もいて、作風にそれぞれの個性が出るのもおもしろいです。
建物の構造・構成を深く理解できるので、現地で実際に目にしながら平面図や断面図を描くというのは、建築を学ぶうえでも非常に効果が高いと思います。そうやって、日々描き続けたカードは思い入れがあるものですし、とても価値があるものなので、就職活動の際には自分の研究内容を伝えるポートフォリオとして持参する学生も多いです。
取り組むときは、絵の上手さよりも記録することを意識して描くのがおすすめです。地図を描くのも楽しく、こだわりの場所やお店などのポイントをメモしていくと、自分のライフスタイルの記録にもなってよいと思います。
今や若者が集うパワースポット!? 古き良き人間関係を生み出す、長屋の魅力を考える
プロフィール
生活科学研究科 生活科学専攻 教授
建築計画、都市計画を専門とし、2006年より大阪長屋の再生に携わる。大阪市北区の豊崎長屋の再生プロジェクトではグッドデザイン賞、サステナブルデザイン賞などを受賞。2021年の「第64回大阪建築コンクール」では大阪府知事賞を受賞。著書に『リノベーションの教科書』(共著、学芸出版社、2018年)などがある。
※所属は掲載当時