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2024年12月9日
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第36回UReCサイエンスカフェを開催しました
2024年12月5日(木)、大阪公立大学中百舌鳥キャンパスにて「第36回UReCサイエンスカフェ」を開催しました。第1部では、環境再生士の矢野智徳氏の大地の再生を追いかけた110分のドキュメンタリー映画『杜人』をご覧いただき、第2部では「大地の再生士」の西尾和隆氏を迎えて、『「大地の再生」から考える防災と伝統土木による環境デザイン』というテーマで、映画の内容を受けて座談会を行いました。学生をはじめ、教職員、地域住民など110名を超える方々が参加しました。
開催に際して、冒頭にUReCの中條壮大准教授から都市科学・防災研究センター(UReC)についてと、これまでのサイエンスカフェでの取り組みの説明がされました。続いて今回の企画者であるUReC兼任研究員で現代システム科学域のハナムラチカヒロ准教授から、この学内での映画上映イベントを通じて、「市民とアカデミズムとの交差点」を生み出すサイエンスカフェの趣旨に加えて、映画などの表現物をはじめとする「アートとサイエンスの交差点」、また自然科学・社会科学・人間科学など多領域の「サイエンス同士の交差点」を生み出す狙いがある開催趣旨が語られました。
第1部の映画の中では、造園家の矢野智徳氏の長年にわたる森林の観察と実践から見出した環境再生方法が語られました。全国で荒廃する森林生態系や、度重なる土砂災害・土石流などの原因として、大地の中の水と空気の循環不良に気づいた矢野氏は、その循環を良くする「大地の再生」という取り組みを各地で始めています。矢野氏を中心とする大地の再生士たちが各地域の市民たちと協働しながら、移植ゴテと草刈り鎌を使って自分たちでできる環境再生と防災として広まりを見せている様子が映画では捉えられ、人と自然との付き合い方として「杜」や「結」の重要性が語られました。
第2部の座談会では、ハナムラチカヒロ准教授(環境デザイン学)のファシリテーションのもと、UReC専任研究員の生田英輔教授(都市防災学)、農学研究科の上田萌子准教授(緑地保全学)、農学研究科の加我宏之教授(地域生態学)が登壇し、ゲストの西尾和隆氏(大地の再生士)への質疑を中心に進行しました。座談会では、伝統土木や作庭の技法の中にある伝統的な型を巡る話題、自然に人が手を加えすぎて生まれた問題と人が手を加えなくなったことで生まれた問題、自然に対して感性を開くことの重要性、自然を治めた場所に住むことの安全性など、闊達な議論が交わされました。
また質疑の中でも、大地の再生後にその土地に対するメンテナンスや継続的な関わりについて、映画の中で語られていた風に習う「風の草刈り」の重要性について、海を埋め立てて生まれた大阪都心部の防災についてなど、様々な問いが立てられました。また会場からの質疑としても、こうした大地の再生を後世に継続していくための仕組みについての問いかけがあり、30分を予定していた座談会を延長するほど議論は盛り上がりを見せました。本イベントを通じて、我々個人でできる防災と環境再生について市民の皆様と一緒に理解を深める貴重な機会となりました。