研究業績

最近の業績(原著論文・総説)

太緑字は,当研究室で研究を行った学生(現役生・卒業生)を示します.

2024

  • Watari, Y., Miyazaki, Y., Goto, S.G., Kuroki, I., Tanaka, K. What accounts for the difference in the emergence times of Drosophila melanogaster between the first and second eclosion days? Entomological Science, online published. doi: 10.1111/ens.12573
    • 集団で見ると羽化(成虫になること)には周期性があり,概日時計によって制御されていることがわかります.多くの昆虫は一日の決まった時間に羽化します.しかし,モデル昆虫としてよく知られているキイロショウジョウバエでは,はじめに羽化する集団と翌日に羽化する集団で羽化の時刻が異なります.これはどういうしくみによるものでしょうか? 研究の結果,初日の集団の羽化時刻がずれは,羽化を制御する時計が環境周期にうまく同調できないために生じることがわかりました.発育速度を速める進化と特定時刻での羽化の適応的意義との間でのせめぎあいがあるようです.芦屋大学,宮城学園女子大学との共同研究の成果です
  • Shimizu, Y., Goto, S.G. No evidence for the involvement of juvenile hormone III and 20-hydroxyecdysone in maternal decisions for embryonic diapause and diapause entry in the band-legged ground cricket Dianemobius nigrofasciatus (Orthoptera: Trigonidiidae). Applied Entomology and Zoology 59, 51-59. doi: 10.1007/s13355-023-00853-6
    • マダラスズの母親は,短日を受容するとその情報を卵巣を介して卵に伝え,休眠を誘導します.これを母性休眠誘導と言います.多くの昆虫で,休眠の制御に幼若ホルモンやエクジステロイドが関与していることが報告されています.しかし、私たちの研究結果から,これらのホルモンはマダラスズの母性休眠誘導に関与していないと考えられました.後期博士課程の清水悠太さんの研究です.

2023

  • Yoshida, M., Goto, S.G. Thermal responses of the embryos and early instar larvae of the Antarctic midge Belgica antarctica (Insecta: Diptera). Polar Biology 46, 539-544. doi: 10.1007/s00300-023-03142-8 
    • 南極に生息する唯一の昆虫ナンキョクユスリカの胚と若齢幼虫の温度反応を明らかにしました.胚は十分な温度耐性を示しますが,若齢幼虫は(南極に生息する割には)幅の狭い温度耐性しか持たないようです.発育に伴い,温度耐性を変化させることが考えられます.博士後期課程の吉田美月さんの研究です.
  • Kodama, A., Matsumoto, K., Shinada, T., Goto, S.G. Juvenile hormone identification in the cabbage bug Eurydema rugosa. Bulletin of Entomological Research 113, 293-298. doi: 10.1017/S0007485321000158 
    • キャベツを摂食する昆虫としても知られるナガメは,2種類の休眠(冬休眠と夏休眠)を持ちます.この2種類の休眠は性質が大きく異なりますが,ともに幼若ホルモンJHSB3によって制御されていることを示しました.博士前期課程を修了された児玉彩さんの研究です.
  • Fuchikawa, T. Circadian Behavioral Rhythms in Social Insects. In Insect Chronobiology (Eds Numata, H. & Tomioka K.). pp. 163-176. Singapore, Springer. doi: 10.1007/978-981-99-0726-7_8
    • 社会性昆虫の概日行動リズムについてまとめました.ミツバチで研究が進んでいる分野ですがアリやシロアリについても積極的に取り入れようとしました.
  • Goto, S.G. Molecular Mechanisms of Photoperiodism. In Insect Chronobiology (Eds Numata, H. & Tomioka K.). pp. 271-291. Singapore, Springer. doi: 10.1007/978-981-99-0726-7_13
    • 昆虫の光周性の分子機構についてまとめました.紙幅が限られているものの,これまでの知見をかなり盛り込みました.皆さんに喜んでもらえる(はず)の1編です.

2022

  • Mano, G., Goto, S.G.Photoperiod controls insulin and juvenile hormone signaling pathways via the circadian clock in the bean bug Riptortus pedestris. Applied Entomology and Zoology 27, 363-377. doi:  10.1007/s13355-022-00795-5
    • 大豆を摂食することでも知られるホソヘリカメムシは,概日時計を介してインスリンと幼若ホルモンを制御することで,生殖を調節していることを明らかにしました.アカイエカで知られている方法とは異なるやり方で,生殖を制御しているようです.博士後期課程 間野玄雄さんの研究です.
  • Takekata, H., Tachibana, S.I., Motooka D., Nakamura, S., Goto, S.G. Possible biological processes controlled by the circatidal clock in the mangrove cricket inferred from transcriptome analysis. Biological Rhythm Research 53, 908-920. doi: 10.1080/09291016.2020.1838747
    • 潮間帯に生息するマングローブスズの歩行活動リズムには約12.4時間周期で起こる概潮汐リズムが見られます.遺伝子発現の網羅的解析により,クチクラ形成にも概潮汐リズムが見られる可能性を見出しました.博士後期課程を修了された武方宏樹さんの研究です.
  • Goto, S.G. Photoperiodic time measurement, photoreception, and circadian clocks in insect photoperiodism. Applied Entomology and Zoology 57, 193-212. doi: 10.1007/s13355-022-00785-7
    • 日本応用動物昆虫学会の学会賞受賞に関連した総説です.私がこれまで行ってきた光周性研究の結果を軸としながら,最新の知見を盛り込みました.皆さんの知識に貢献する1編と思っています.
  • Mukai, A.Mano, G., Des Marteaux, L., Shinada, T., Goto, S.G. Juvenile hormone as a causal factor for maternal regulation of diapause in a wasp.Insect Biochemistry and Molecular Biology 44, 103758. doi: 10.1016/j.ibmb.2022.103758
    • キョウソヤドリコバチの母親は,受容した環境情報を卵巣を介して卵に伝え,自身の子の発育を制御します(母性休眠誘導).私たちは,母親が自身の幼若ホルモン合成を制御することで母性休眠誘導を調節していることを明らかにしました.博士後期課程を修了された向井歩さん,現役博士後期課程学生 間野玄雄さんの研究です.
  • 向井歩多賀谷純・後藤慎介・沼田英治 都市の夜は明るいか―ナミニクバエの場合.比較生理生化学 39, 53-58. doi: 10.3330/hikakuseiriseika.39.53
    • Mukai et al. (2021)の解説記事です.都市の夜は明るく,その明るさによって,ナミニクバエの光周性が乱されることを明らかにしました.他の昆虫にも当てはまる知見と考えています.博士前期課程を修了された多賀谷純さん,博士後期課程を修了された向井歩さんの研究です.
  • Goto, S.G., Nagata, M. The circadian clock gene (Clock) regulates photoperiodic time measurement and its downstream process determining maternal induction of embryonic diapause in a cricket. European Journal of Entomology 119, 12-22. doi: 10.14411/eje.2022.002
    • マダラスズにおいて,概日時計遺伝子Clockが,日長測定と休眠卵産生の両方に関わることを示しました.概日時計遺伝子の多面効果を明瞭に示す研究で,前期博士課程を修了された永田雅俊さんの成果です.
  • Des Marteaux, L., Xi, J., Mano, G., Goto, S.G. Circadian clock outputs regulating insect photoperiodism: a potential role for glutamate transporter. Biochemical and Biophysical Research Communications 589, 100-106. doi: 10.1016/j.bbrc.2021.12.014
    • ホソヘリカメムシの卵巣発達の光周性にグルタミン酸トランスポーターが関わることを示しました.学振外国人特別研究員として在籍されたDes Marteauxさんの研究です.

2021

  • Mukai, A., Yamaguchi, K., Goto, S.G. Urban warming and artificial light alter dormancy in the flesh fly. Royal Society Open Science 8, 210866.doi: 10.1098/rsos.210866 (朝日新聞による紹介記事研究紹介
    • ナミニクバエの光周性が都市の温暖化と夜の明るさによって乱されることを示しました.都市化が昆虫に与える影響はこれまでいくつか調べられてきましたが,季節性への影響を実験生理学的に,生理生態学的に調べた研究はありませんでした.国際広報もしていただき,多くの反響をいただきました.博士後期課程を修了された向井歩さん,博士前期課程を修了された山口幸紀さんの研究です.
  • Kitai, H.Kakuda, U., Goto, S.G., Shiga, S. Photoperiod controls egg laying and caudodorsal cell hormone expression but not gonadal development in the pond snail Lymnaea stagnalis. Journal of Comparative Physiology A 207, 523-532. doi: 10.1007/s00359-021-01494-2
    • 短日で生殖腺の発達を抑制する種が多い中,軟体動物モノアラガイは生殖腺の発達ではなく産卵そのものを抑制していることを明らかにしました.産卵ホルモンの合成分泌が日長間で異なると考えられます.博士前期課程を修了された鍛仁美さん,角田宇海さんの研究です.
  • 篠原 従道, 富岡 憲治 タンボコオロギにおける光周期と温度による幼虫発育の制御機構 比較生理生化学 38, 38-44. doi: 10.3330/hikakuseiriseika.38.38
    • タンボコオロギの成長制御に幼若ホルモン経路とインスリン/TOR経路が関わることを示した,博士後期課程 篠原従道さんによる総説です.
  • Yoshida, M., Lee, R.E. Jr., Denlinger, D.L., Goto, S.G. Expression of aquaporins in response to distinct dehydration stresses that confer stress tolerances in the Antarctic midge Belgica antarctica. Comparative Biochemistry and Physiology, Part A, 256, 110928. doi: 10.1016/j.cbpa.2021.110928解説
    • 南極に生息するナンキョクユスリカは,脱水ストレスの種類によって水チャネル(アクアポリン)の発現を変化させていることを明らかにしました.この発現調節によって,脱水を制御し,ストレス耐性の獲得を調節していると考えられます.博士後期課程学生の吉田美月さんの研究です.
  • Matsumoto, K., Kotaki, T., Numata, H., Shinada, T., Goto, S.G. Juvenile hormone III skipped bisepoxide is widespread in true bugs (Hemiptera: Heteroptera). Royal Society Open Science 8, 202242. doi: 10.1098/rsos.202242朝日新聞による紹介記事解説
    • カメムシ亜目(一般の方々が思うカメムシ類)31種を調べたところ,その全てが幼若ホルモンJHSB3を持つことがわかりました.他の昆虫には見られないJHSB3は,カメムシ亜目が進化した時,あるいはそれよりも前に誕生したと考えられます.
  • Takano, Y., Goto, S.G., Gotoh, T. Diapause induction in Eotetranychus smithi (Acari: Tetranychidae): Effect of average temperature, but not of thermoperiod. Physiological Entomology 46, 8-16. doi: 10.1111/phen.12335
    • スミスアケハダニは温度を読み取って休眠に入り,この休眠誘導には概日時計は関わらないことを示しました.茨城大学の高野友二郎さんの研究です.
  • Fujioka, H., Okada, Y., & Abe, M.S. Bipartite network analysis of ant-task associations reveals task groups and absence of colonial daily activity. Royal Society Open Science, 8(1), 201637.
    doi:10.1098/rsos.201637

2020

  • Ichikawa, A.Ikeda, M., Goto, S.G. Cold storage of diapausing larvae and post-storage performance of adults in the blowfly Lucilia sericata (Diptera: Calliphoridae). Applied Entomology and Zoology, 55, 321-327. doi: 10.1007/s13355-020-00685-8
    • イチゴの授粉に用いられるヒロズキンバエを休眠状態で長期間保存できることを示しました.学部で卒業した市川葵さん,池田基紘さんの研究です.
  • Matsumoto, K., Yasuno, Y., Yasuda, K., Hayashi, T., Goto, S.G., Shinada, T. Structure determination of juvenile hormone from Chagas disease vectors, Rhodnius prolixus and Triatoma infestans. Chemistry Letters 49, 538-541. Editor’s Choice. doi: 10.1246/cl.200126
    • シャーガス病の原因となるトリパノソーマを媒介するサシガメ類の幼若ホルモンがJHSB3であることを示しました.
  • Ando, Y., Matsumoto, K., Misaki, K., Mano, G., Shiga, S., Numata, H., Kotaki, T., Shinada, T., Goto, S.G. Juvenile hormone III skipped bisepoxide, not its stereoisomers, as a juvenile hormone of the bean bug Riptortus pedestris. General and Comparative Endocrinology, 289, 113394. doi: 10.1016/j.ygcen.2020.113394
    • ホソヘリカメムシの幼若ホルモンがJHSB3であることを明らかにしました.物質分子専攻の安藤裕美さんの研究です.
  • Tachibana, S.-I., Matsuzaki, S., Tanaka, M., Shiota, M., Motooka, D., Nakamura, S., Goto, S.G. The autophagy-related protein GABARAP is induced during overwintering in the bean bug Riptortus pedestris (Hemiptera: Alydidae). Journal of Economic Entomology, 113, 427–434. doi: 10.1093/jee/toz287
    • ホソヘリカメムシは,まだ餌がない春の早い時期に休眠から覚めます.この餌がない時は,オートファジーを利用して生き延びていることを明らかにしました.修士課程で卒業した松崎真二さんの研究です.
  • Inagaki T, Yanagihara S, Fuchikawa T, Matsuura K Gut microbial pulse provides nutrition for parental provisioning in incipient termite colonies Behavioral Ecology and Sociobiology 74 doi: 10.1007%2Fs00265-020-02843-y
  • Mitaka Y, Tasaki E, Nozaki T, Fuchikawa T, Kobayashi K, Matsuura K Transcriptomic analysis of epigenetic modification genes in the termite Reticulitermes speratus. Insect Science, 27, 202–211. doi: 10.1111/1744-7917.12640

これまでの業績

2015-2019年の原著論文・総説はこちら2015-2019 (411.3KB)
2010-2014年の原著論文・総説はこちら2010-2014 (166.9KB)
2005-2009年の原著論文・総説はこちら2005-2009 (426.5KB)
1995-2004年の原著論文・総説はこちら1995-2004 (224.8KB)
2004年以降,執筆に携わった本はこちら本 (406.9KB)