研究内容 | Research

金属クラスターの構造・物性相関

金や銀を微細化していくと、サイズが小さくなるに従って、その色や物性が大きく変化します。微細化した金や銀の表面を有機物で被覆し、ナノ粒子化すると微細化状態を安定に保つことができます。ナノ粒子は有機物が中心金属の表面に絶えず吸着しながら自己組織的に成長していきます。また、ある程度成長した後で、配位子や試薬、酸素などの効果によりエッチングを受けて、特定サイズに収束することもあります。特に、特定数の金属原子と配位子の組み合わせの一義的な組成で安定化されたナノ粒子を魔法数クラスターと言います。金属クラスターの組成は、金属の種類や配位子の構造に強く依存し、電子的、光学的性質は、明確な構造-物性相関を示します。



銀29クラスター

中嶋グループでは特に銀29クラスターの構造制御と機能開拓に取り組んでいます。 銀29クラスターは銀原子29個とジチオレート配位子12個からなります。その特徴は、非対称な原子配列構造を持つため、本質的な不斉構造を有すること、また、赤色~近赤外領域でよく光ることが挙げられます。

銀29クラスターの非対称構造

銀29クラスターは、二座配位子として1,3-ベンゼンジチオール(BDT)や水溶性のα-ジヒドロリポ酸(DHLA)を用いることで合成されます。BDTはキラリティーを有していませんが、右巻き・左巻きの非対称構造のクラスターを等量混合物(ラセミ体)を与えます(右図)。私たちは、この非対称構造の存在に気づき、キラルカラムによる各エナンチオマークラスターの分離に成功しました。一方、DHLAは水溶性の二座配位子ですが、キラリティーを有しています。BDTに変えて、DHLAを用いて水溶液中で合成した銀29クラスターは、DHLAのキラリティーに依存して、右巻きまたは左巻きの構造を優先的に与えます。また、銀29クラスターは発光性を有しており、非対称構造を制御したクラスターは、吸収円二色性(CD)に加えて、円偏光発光(CPL)を示しました。さらに、合成温度、濃度、添加物などの条件により、銀29クラスターの非対称構造が自在に制御できることを見出しています。

銀29クラスターの発光制御

貴金属クラスターは、離散したエネルギー準位を有する軌道間の電子遷移に基づく光学特性(吸収・発光)を示します。特に銀原子を含むクラスターはしばしば良好な発光を示すことがあります。BDTを配位子として有する銀29クラスターはDMFによく分散し、赤色(~660 nm)の発光を示すことが報告されていました。私たちは、この銀29クラスターをピリジン中に分散し、さらに、光照射を行うことで、発光波長は近赤外域(~770 nm)まで長波長シフトし、発光量子収率が1%から30%以上に向上することを見出しました。さらに、クラスターの銀原子の一部を金原子に変えた金ドープクラスターは発光ピーク800 nm以上、発光量子収率45%以上と、分子・錯体・クラスター材料としては、過去最高強度の近赤外発光を示すことを報告しました。

NIRem

このように銀29クラスターは、非対称構造、近赤外発光とユニークな構造・物性を示します。さらに、これらの構造・物性はちょっとしたきっかけて制御することが可能です。私たちは、これまで培った「自己組織化」、「光化学」、「キラル化学」、「イオンペア工学」のノウハウ・バックグラウンドを基盤に金属クラスターの構造・物性にアプローチし、当グループならではのユニークなクラスター科学を展開していきます。

これまでの研究(中嶋)

イオン液体を用いた界面化学(~2003)


IL

イオン液体は文字通りイオンのみからなる液体です。イオン液体中における両親媒性の自己組織化や、酸化チタンマイクロカプセルの合成、水-イオン液体界面における荷電性粒子の静電吸着を利用した界面集積化など、イオン液体ならではの展開を示しました。

イオン液体と量子ドット(QDs)の複合化(2004~)


QD-IL

発光性の量子ドット(QD)をイオン液体に任意の濃度で分散させることに成功しました。重合性のイオン液体により発光性のポリマー複合体を作製しました。さらに、低温での発光特性を評価することで、QDの励起状態の物理化学的特性を厳密に評価することができました。

キラル色素分子の自己組織化・分子認識制御と円偏光発光(CPL)(2007~)


CPL-1

キラル構造を有する色素分子の自己組織化による円偏光発光(CPL)特性の増幅を行いました。また、ねじれ構造を有するキラル色素の分子認識特性による、自己組織化ファイバー長の連続的な制御や、自己組織化ファイバーによる完全不斉認識に成功しました。

キラルナノ粒子の化学(2009~)


ChiralQDs

キラル配位子を用いたQDの合成により、光学活性を有するQDを合成しました。さらに、キラル配位子のQD表面における不斉配位構造の制御により、表面や粒子コア結晶の不斉原子配列の制御法を提案しました。

フォトクロミック分子の超分子化学的立体構造制御(2013~)


CPL-2

らせん状の立体構造を有する光反応性(6π電子環状反応)のテトラチアゾールの両末端にピレンやユウロピウム錯体を結合し、そのねじれた会合状態を光照射により制御することでCPL特性の光スイッチングを達成しました。

異方形状量子ドットの両親媒性自己組織化(2015~)


QDassembly

表面が等方的に被覆されている異方形状ナノ粒子の表面を配位子交換を通じて両親媒性化することにより、水中における自己組織化特性を付与しました。これにより、ナノロッドは繊維状、テトラポッドはカゴメ状に自己組織化します。