精子フリーズドライ保存法

フリーズドライ精子保存法
フリーズドライは、インスタントコーヒーや宇宙食などの食品あるいは医薬品の長期保存に汎用されている技術である。この技術を精子保存に応用した場合、従来の凍結保存法と比較して以下の利点が挙げられる。
      • 特殊な保存液が不要(TE bufferで保存)
      • 液体窒素タンクや定期的な液体窒素の購入・補充が不要(4℃保存)
      • 設備・維持費の大幅なコストダウンが可能
      • 保有サンプルの管理、バックアップが容易
      • ドライシッパー・ドライアイス不要の常温国際輸送が可能
また、災害や事故により長期停電や液体窒素の供給が途絶えると、液体窒素やディープフリーザーで保存されている貴重な研究用サンプルは実験に使用できなくなる。このようなことから、フリーズドライ法(図1)を遺伝資源へ応用する重要性が高くなっている。我々は、保存サンプルの安全管理・コスト面から長期保存可能なフリーズドライ精子保存法の開発に関する研究を行ってきた。その結果、ラットでは5年間(図2)、マウスでは3年間(図3)冷蔵庫で保存したフリーズドライ精子から産子の作出に成功した。

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図1 精子フリーズドライ法

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図2 フリーズドライ精子のアンプル(右)と5年間保存したフリーズドライ精子から得られたラット(左)

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図3 フリーズドライ精子のアンプル(右)と3年間保存したフリーズドライ精子から得られたマウス(左)

哺乳類の配偶子保存は、液体窒素を用いることが当たり前のように行われてきた。しかしながら、ランニングコストやメンテナンスに多額の費用を要する。さらに、災害や事故から起こる長期停電により液体窒素の生産・供給が途絶えることは致命的である。今回のフリーズドライ精子の長期保存の成功は、液体窒素不要、省電力の安全・簡易・低コストな遺伝資源保存・輸送法の実用の可能性を大いに向上させたと言える。これを機に、ラット・マウス以外の動物種においても産子作出、長期保存の成功が報告され、新たな遺伝資源保存法として応用されることを期待している。

本研究成果は、NHK、ABC朝日(テレビ朝日)放送、MBS毎日(TBS)放送、讀賣(日本)テレビ、朝日新聞(4月10日夕刊 10面)、京都新聞(4月10日夕刊 1面)、日本経済新聞 (4月10日夕刊 14面)、毎日新聞(4月10日夕刊 10面)、読売新聞(4月10日夕刊 8面)、産経新聞(4月10日夕刊 10面)、日刊工業新聞(4月11日朝刊 21面)、科学新聞(5月11日 2面)および系列地方紙に掲載された。

研究成果論文:

1. Successful long-term preservation of rat sperm by freeze-drying. Kaneko T, Serikawa T. PLoS One 7(4): e35043, 2012. http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0035043

2. Long-term preservation of freeze-dried mouse spermatozoa. Takehito Kaneko, Tadao Serikawa. Cryobiology 64: 211-214. http://dx.doi.org/10.1016/j.cryobiol.2012.0

メディアリリース:

災害に強い液体窒素不要の遺伝資源長期保存法の開発 -長期保存したフリーズドライ(真空凍結乾燥)精子からラット・マウスの作出に成功-