Research

未利用バイオマスの高度利用化(阪本)

research01

我々は深刻な環境問題に直面し、バイオマス利用による「資源循環型社会」への転換が迫られている。バイオマスには様々な種類が存在するが、食品加 工産業から発生する残渣(非可食部)だけでも国内年間1,700万トンに達する。加工残渣中には細胞壁多糖やポリフェノール等の二次代謝産物が含有する が、それらの量比や種類は植物種により大きく異なることから、有用物質生産の出発素材として高いポテンシャルがある。
本研究では、環境負荷の少ない技術であるバイオテクノロジーによる、バイオマスの高度利用化を目指して、「有用微生物酵素の探索とその触媒機能解析」、「酵素を利用した有用物質生産」、「酵素合成化合物の機能性評価」を行っている。

 

糸状菌 Penicillium chrysogenum の生産するペクチン分解酵素群の網羅的機能解析

植物細胞壁の構成多糖であるペクチンは自然界で最も複雑な構造を有する多糖の1種である(下図)。糸状菌類はペクチン分解能が高いものが多く、特 異性・反応様式の異なる様々酵素がこれまでに単離されている。しかし、糸状菌ゲノムシークエンスの結果から、予想をはるかに上回る数のペクチン分解酵素が 存在することが推定されている。しかしながら、大部分の遺伝子はその酵素学的性質が明らかにされていない。本研究では、優れたペクチン分解能を有するP. chrysogenum由来の52種の推定ペクチン分解系遺伝子を単離.発現し、それらの詳細な反応特性解析を行うことにより、ペクチン分解機構に関する 新たな知見を得ることを目的とする。
また、関連分野としてヘミセルロースに分類されるキシランやマンナンの分解酵素についての研究も行っている。

research02

 

 ペクチンおよびペクチン分解酵素は産業的に有用であり、糸状菌が潜在的に保持しているペクチン分解酵素の新規機能を開拓することにより以下の利用法が期待できる。

  • (ペクチン由来オリゴ糖の調製)ペクチンは多様な構造を有するヘテロ分岐多糖であることから、特異な酵素を単独あるいは組み合わせて作用させるこ とで、これまでにない様々なタイプのヘテロ分岐オリゴ糖を調製することができる。現在、これまでに得られたオリゴ糖について様々な機能性評価を行ってい る。
  • (ペクチン製造)ペクチンは食品分野でゲル化剤や増粘剤として利用される有用糖質であるが、その性質は側鎖や修飾基の量と分布、および分子量などで大きく異なる。特異性の異なる酵素により処理することで、様々な物性あるいは機能性が異なるペクチンの開発が期待できる。
  • (酵素製剤の改良)新規酵素を従来のペクチナーゼ製剤などに添加することで、それらの力価および性質を改良できる。
  • (構造解析)ペクチンは種々の修飾基をもち、化学的分析法だけでは詳細な構造決定は困難である。このような場合には特異性の高い酵素は、修飾基の量と分布の決定に強力な道具となる。

アラビノガラクタンプロテイン(AGP)分解酵素に関する研究

AGPの糖鎖領域を構成するII型アラビノガラクタンは、β-1,3-ガラクタンを主鎖にもち、アラビノースやガラクトース、グルクロン酸などか ら構成される複雑な側鎖構造を持つ多糖であり、免疫賦活活性や抗糖尿病作用等を示すことが知られている。これを分解する酵素の研究は少なく、そのために II型アラビノガラクタンの生理活性と糖鎖構造との相関解析も困難である。また、AGPは植物組織中では細胞認識や分化などの重要な生理機能を担う情報伝 達に関与していると考えられている。AGPの植物内での機能を解析する上で、アラビノガラクタン分解酵素は重要な道具となる。以上のことを解析する目的 で、微生物の生産するアラビノガラクタン分解酵素の研究を行っている。

ポリフェノール誘導体の酵素合成と機能性評価

バイオマス中には多糖だけではなく、様々な二次代謝産物が残存している。本研究ではポリフェノール類(フラボノイドやフェニルプロパノイド等)を 基盤原料に、酵素が有する糖転移反応やエステル交換反応による構造改変技術を利用して、物性および生理機能を改変させた誘導体合成の研究を行っている。

海藻由来多糖の食品機能性に関する研究

昆布やワカメなど海洋生物は古来より食されてきたが、いまだ未利用生物が多く存在し、海は資源の宝庫である。また、生育環境は海と陸では大きく異 なるため、海洋生物中には新奇な構造や機能をもつ物質の存在が期待される。食品として多くの海藻を利用している日本では、海藻成分のもつ生体維持機能につ いては、近年ますます関心が高まっている。本研究では、廃棄系海藻中に含まれる糖質をターゲットとして、免疫賦活活性などの食品機能性評価および糖鎖構造 解析を行っている。

 

生物・酵素の機能に学ぶバイオサイエンス・バイオテクノロジー(上田)

ミミズに学ぶ低温環境下での植物バイオマスの効率的な分解とその利用

research03

ミミズの低温環境下での有機物分解能に着目したところ、ミミズに低温適応酵素が存在することを明らかにした。現在、ミミズ由来の低温適応性糖質分解 酵素の基礎と利用に関する研究を行っている。(水生生物のタニシ由来の低温適応酵素に関する研究も行っている) →詳細は以下をご覧下さい。

論文(Selected papers)

  1. Purification and characterization of novel raw-starch-digesting and cold-adapted α-amylases from Eisenia fetida.(doi:10.1016/j.cbpb.2008.02.003)
  2. A novel cold-adapted cellulase complex from Eisenia fetida: Characterization of a multienzyme complex with carboxymethylcellulase, β-glucosidase, β-1,3 glucanase, and β-xylosidase. (doi:10.1016/j.cbpb.2010.04.014)
  3. Cloning and expression of the cold-adapted endo-1,4-β-glucanase gene from Eisenia fetida. (doi:10.1016/j.carbpol.2013.09.057)

キノコに学ぶ難分解性物質の分解とその利用

research04
キノコはリグニンやセルロースなど難分解性物質を分解する酵素群を有している。そこで、キノコのこの能力を活用して以下の研究を行っている。 →詳細は以下をご覧下さい。

キノコ由来の環境ホルモン物質除去能を有する酵素に関する研究

  1. A protein from Pleurotus eryngii var. tuoliensis C.J. Mou with strong removal activity against the natural steroid hormone, estriol: Purification, characterization, and identification as a laccase. (doi:10.1016/j.enzmictec.2012.08.010)
  2. 「きのこ由来の酵素を用いた女性ホルモンの除去に関する研究」
    2012年日本菌学会西日本支部会報,菌学講座

キノコ由来の多糖並びにタンパク質分解酵素とその利用に関する研究

  1. Purification and characterization of a new fungalysin-like metallopeptidase from the culture filtrate of a plant worm, Nomuraea atypicola. (doi:10.1016/j.procbio.2012.11.005)
  2. コナサナギタケ (Paecilomyces farinosus) 由来のプロテアーゼの精製と性質,2012年日本きのこ学会第16回大会(http://www.jsmsb.jp/about/prizewinner/

好熱性細菌由来のGH Family 23 新奇キチナーゼの構造と機能の解析とその利用

research05
カニ、エビ等に含まれる難分解性のキチンをバイオマス資源として捉え、分解酵素の構造と機能並びにその利用法に関する研究を行っている。 →詳細は以下をご覧下さい。

GH Family 23 新奇キチナーゼに関する論文

  1. A novel goose-type lysozyme gene with chitinolytic activity from the moderately thermophilic bacterium Ralstonia sp. A-471: cloning, sequencing, and expression.   (http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00253-008-1676-y)
  2. Crystal structures of the catalytic domain of a novel glycohydrolase family 23 chitinase from Ralstonia sp. A-471 reveals a unique arrangement of the catalytic residues for inverting chitin hydrolysis.
    (doi: 10.1074/jbc.M113.462135., http://pfwww.kek.jp/pf-sympo/27/abst/UG-03-42.pdf)

 

微細藻類ユーグレナを用いたバイオ燃料生産に向けた研究(中澤)

ユーグレナは動物と植物の両方の性質をあわせもった、非常にユニークな微細藻類です。私たちは、この生物が低酸素・嫌気環境で生産する「ワックスエステル」という油脂に着目して、研究を行っています。

ユーグレナの生産するワックスエステルは、主成分がC14:0-C14:0Alcです。一般的な微細藻類や植物の生産するトリグリセリド中の脂肪酸と比較して、鎖長が短いこと、不飽和結合を持たないことが特徴です。このことは、ワックスエステルから生産したバイオディーゼル燃料の性質にも反映されます。ユーグレナのワックスエステル生産メカニズムを解明するための基礎研究の過程で、ユーグレナのワックスエステルを構成する脂肪酸・脂肪アルコールを「さらに短くする」ことにも成功しました。(プレスリリース

ユーグレナの低酸素下代謝機構の解明という基礎研究の側面と、使いやすいワックスエステルを大量に作るユーグレナを開発するという応用研究の側面を両立して、研究を進めています。

(English version)

Research on Biofuel Production Using Microalgae, Euglena (Masami Nakazawa)

 

Euglena is a unique microalgae species that exhibits both animal and plant characteristics. Our research focuses on a type of lipid called "wax esters," which Euglena produces in hypoxic and anaerobic conditions.

 

The wax esters produced by Euglena are primarily composed of C14:0-C14:0Alc. Compared to fatty acids in triglycerides produced by common microalgae and plants, their chain length is shorter and contains no unsaturated bonds. These properties are reflected in the properties of biodiesel fuel produced from wax esters. As part of our basic research to elucidate Euglena's wax ester production mechanism, we also successfully "further shortened" the fatty acids and fatty alcohols that make up the wax esters in Euglena. (Nakazawa et al. (2015) Lipids)

 

Our research encompasses both fundamental and applied aspects. We seek to understand the metabolic mechanisms of Euglena under hypoxia while also developing Euglena strains that can produce large quantities of easy-to-use wax esters.

 

Additionally, we are developing molecular biology tools for Euglena gracilis to gain further insight into the biochemical characterization of this organism. We welcome invitations for joint research from both domestic and international partners.

(プロジェクト例)
微細藻類ユーグレナの新規形質転換法の開発と応用(2011~)

research06