岸田正夫 准教授(研究内容)
(1)酵母の休眠型ポリガラクツロナーゼ遺伝子に関する研究
出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの実験室株は遺伝子を持つにもかかわらず通常ポリガラクツロナーゼを生産しない。このポリガラクツロナーゼの休眠化に関与する因子の解明を目指し、以下の研究を行っている。
(i) 生産性変異株の取得・遺伝学的解析。
(ii) 酵母遺伝子欠失株クローンライブラリーの網羅的解析・ポリガラクツロナーゼ発現に関与する遺伝子群の検索
(iii) ポリガラクツロナーゼ発現を誘導する酵母由来DNAの単離と解析
(iv) ポリガラクツロナーゼを発現する実用酵母の検索と利用および休眠型実験室株との比較
(2)酵母の未利用酵素遺伝子の解析と利用に関する研究
出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの全ゲノム解析により、今まで酵母では存在しないと考えられてきた酵素遺伝子が酵母ゲノム中に潜在的に存在することが明らかになってきた。これらの遺伝子がどのような発現制御(休眠化)を受けているかは興味深く、また中には有益な酵素遺伝子も数多く含まれておりその機能の解明と有効利用のため、以下の研究を行っている。
(i) 酵母のキシロース代謝に関与する遺伝子群の解析
(ii) 酵母の芳香族アルデヒド代謝に関与する遺伝子の解析
(3)タイ地酒中の微生物コンソーシアムの解析と有用微生物の単離
タイ・ラオス国境付近では伝統的に蒸米を甕の中で自然発酵させた地酒(オウ)が作られている。このような亜熱帯地方特有の複合発酵系では日本(清酒や味噌など)や欧米(ワインなど)で用いられている醸造工程とは異なる微生物コンソーシアムが形成されている可能性が考えられる。本研究はこのような新規の微生物コンソーシアム中から亜熱帯地方特有の耐熱性持つ有用微生物の検索・単離を目指している。
(i) 澱粉を分解しアルコール発酵できる酵母の検索
(ii) プロバイオティクスに利用できる乳酸菌の検索
(iii) キャッサバ・サトウキビ・さご椰子などの熱帯性農産物加工残渣の再資源化に利用できる酵母の検索
(4)異種酵母細胞融合による新規有用酵母の育種
上記(3)を含む有用酵母を細胞融合法により育種することを目指している。
(5)酵母の放射線障害防御メカニズムの解析
一般に酵母菌は哺乳類細胞に比べて放射線に対する感受性が低いとされている。そこで代表的な酵母であるS. cerevisaeの放射線に対する(i) 細胞応答機構・(ii) 生理学的適応機構・障害修復機構についての解明を目指し、細胞生物学・分子遺伝学・代謝生理学に関する研究を行っている。