セントラルドグマに導かれて遺伝子レベルの研究へ
子どもの頃から生き物が好きで、小鳥や虫をずっと見て育ちました。そのうち『生き物って、どういう仕組みなのか』と興味を持つようになり、自然な流れで理系へ進学。将来を考えれば何か資格を持っていたほうが良いだろうと、まわりから勧められて薬学部を選びました。とはいえ薬剤師になるイメージは、あまり持てていませんでした。
研究者を目指そうと考えるようになったのは、大学の遺伝学の講義で聴いたセントラルドグマの話がきっかけです。セントラルドグマとは分子生物学の基本概念のこと。細菌からヒトに至るまで地球上のすべての生き物は、DNAに書き込まれている遺伝子情報がRNAとして読み出され、それによってタンパク質の構造や機能が規定され、生命活動を営んでいるとされています。複雑を極める生命現象の本質が、このような単純な理屈で成立していることに、何か物事の本質を垣間見たような気持ちになり、遺伝子レベルの研究をしたいと強く思うようになりました。
その後、この講義を担当された先生のもとで研究し、先生が東京大学に移られたときに、私も付いていきました。東京大学の研究室で取り組んだのがミツバチの研究です。あまり知られていませんが、ミツバチは抽象的な概念を理解できる生物です。その賢さを解明するために、ミツバチの脳の研究を始めました。この研究のなかで、ミツバチの高次な行動と関わるであろう遺伝子を特定し、同じ遺伝子を線虫が持っていることもつきとめました。モデル動物の線虫を使えば、この遺伝子の機能を解明できるかもしれない。これが私と線虫の出会いであり、この研究で博士号を取得しました。
その後、製薬会社に就職し、抗がん剤の研究に取り組むようになりました。医薬品開発研究は意義深いものではあるものの、自分の関心の焦点は基礎研究に向いてしまい、何らかの生命原理を解き明かす研究をしたいと日に日に強く思うようになり、再び大学に戻ることを決めました。今は線虫を用いて、ヒトの生命原理、特に抗老化のメカニズムについて研究をしています。振り返ってみると、あの日の遺伝学の講義で感じた衝撃が、私の研究者としての出発点であり、研究の方向性をも決定づけたのだと思います。
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プロフィール
生活科学研究科 教授
生活科学研究科 食栄養学分野 教授
博士(薬学)。2022年より現職。1999年九州大学薬学部卒業、2001年同大学院薬学研究科修士課程修了、2004年東京大学薬学系研究科博士課程修了。製薬会社での研究員、東京女子医科大学医学部講師を経て現職。線虫をモデル生物とし分子遺伝学的手法を駆使して、微生物感染から食品成分や有用菌の抗老化作用の解明などに取り組んでいる。
研究者詳細
※所属は掲載当時