臨床での経験が、獣医再生医療への情熱を掻き立ててくれた
千葉の実家では、犬や猫など、たくさんの動物を飼っていました。小学生のとき、最初に飼った犬は、動物愛護センターからもらってきた子。しかし迎え入れると、すぐに体調を崩して亡くなってしまったのです。いまならパルボウイルス感染症だったとわかるのですが、当時は何の病気かもわからず、ただ、命はすごく大事なものだと感じたことを覚えています。そこから動物のお医者さんになりたいと思うようになり、本学の前身である大阪府立大学の農学部獣医学科に進みました。
その後、獣医師免許を取り、2002年に進んだ大学院では細胞病態学教室で研究を続けつつ、併設の獣医臨床センターで診察も手がけるようになりました。しかし、実際に臨床現場で治療にあたると、治せない病気がとても多く、研究で解決できればという思いが高まります。生命を扱う学問は本当に奥が深く、簡単なものではない。そう痛感したのもこのころです。教科書上での学びと、実際の治療では違いも多く、わからないことだらけ。病気に関して最新の論文を調べ、ときには人の医療も参考にしながら、新しい治療方法を模索するという研究の面白さは、このときに身をもって理解できたと感じています。
自身の研究テーマとしても、何か病気に役立つ研究ができないかと指導教授の稲葉俊夫先生に相談したところ、ES細胞を使った再生医療研究をしてみようという話になり、受精卵からES細胞をつくる研究に取り組み始めました。周りでは犬のES細胞の作製なんて誰もやっておらず、再生医療もそんなに広がっていない時代です。だけど、この研究で治せない病気を将来治すことができるかもしれない。そう考えると、さらにモチベーションが高まり、世界で初めて犬のES細胞の培養に成功しました。
大学院修了後、動物病院で働くようになってからも、治らない病気に苦しむ動物たちを何度も目の当たりにして、動物たちを助けられる研究ができないかとあらためて考えるようになりました。縁あって本学に戻ってきてからは、犬や猫のiPS細胞をつくる研究を進めていくようになりますが、研究の根底にあるのは、臨床現場で感じた動物たちを救いたいという思いです。いまでも研究と並行し、動物たちの診察を続けています。臨床センターのスタッフや学生たちと取り組んでいる日々の臨床での経験が、さらなる研究意欲を掻き立てる原動力となっているのです。
iPS細胞の活用先は人だけじゃない!イヌiPS細胞がもたらす多様な可能性
プロフィール
獣医学研究科 教授
獣医学研究科 獣医学専攻 教授
獣医学研究科 獣医学専攻 准教授。獣医学博士。専門は、獣医再生医療。大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 獣医学専攻の助教、准教授を経て、2022年より現職。主な研究テーマは、イヌおよびネコiPS細胞を用いた再生医療研究、ネコ体外受精方法の確立およびES細胞株の樹立、間葉系幹細胞を用いた難治性内科疾患の治療など。犬の血液細胞からイヌiPS細胞の作製に成功し、その成果が2021年1月、細胞生物学系の学術雑誌『Stem Cells and Development』に掲載された。
※所属は掲載当時