屋外大気、室内大気、排ガス中の亜硝酸ガスの測定
屋外大気、室内大気、排ガス中の亜硝酸ガスの測定
亜硝酸は、あまり聞き慣れない言葉かも知れませんが、とても身近に存在している物質です。
食品
加工肉の原料を見ると亜硝酸ナトリウムが発色剤として含まれているのが分かると思います。肉のミオグロビンと結合すると安定した赤色の化合物になるそうで、色合いが良く見えるのです。余計なものをと思うかもしれませんが、肉の中で猛毒となる菌の繁殖を抑えているので、とても重要な役割を果たしています。
室内
燃焼機関からは亜硝酸ガス(以後HONOと記載します)がでてきます。実は、HONOは喘息の原因となっているかもしれないと指摘されています。もし本当なら、動物実験の結果からは1 ppbが規制値になり、この濃度は道路近傍、燃焼機関を使う室内、プラズマイオン空気清浄機からも出てくる濃度で、非常に大きな問題になります。今まではNO2が喘息に悪いと言われていましたが、どうもHONOが主原因かもしれないのです。
屋外
HONOは太陽光で容易に分解するので日中は濃度は低く、夜間に高くなる傾向にあります。朝、日が昇ると直ちに分解が始まり、次式の様にOHラジカルを生成します。OHラジカルは大気の掃除屋といわれるほど、大気中で多くの物質の分解反応に関与し、大気の酸化能を決めている重要な物質です。つまり、亜硝酸は、この大気で最も重要なOHラジカルを生み出す親ともいえる存在です。OHラジカルの親は他にもいますが、早朝で最もOHを生み出すのはHONOだと言われていおり、場所によっては一日を通しても、HONOが一番の発生源だという報告もあります。
HONO + 光 → NO + ・OH
測定
HONOの測定は非常に難しいです。HONOの測定原理はNO2にも当てはまり、つまり、HONOを測定しようとすると、HONOより20~50倍ほど多く存在しているNO2も測定してしまうので、NO2の妨害なしに測定することがきわめて困難なのです。例えば、以前、NO2測定の主流だったザルツマン法は、NO2が水に溶けると亜硝酸となることを利用した亜硝酸検出法が測定原理です。HONOは容易に測定できるのですが、NO2の寄与の方がはるかに高く、この方法を改良して用いるのは非常に困難です。現在のNO2測定の主流は、化学発光法というものです。これはNOを検出する方法ですので、熱をかけてNO2をNOに変換する必要があります。 NO2 + 熱 →NO + O ところが ON-O の結合エネルギーは306.21 kJ mol-1で、HONOの HO-NO の結合エネルギー200.64 kJ mol-1の方が弱く、HONOは熱でより容易にNOに変化するのです。 現在、HONOを選択的に測定する方法は、いくつか報告されています。
1) 管状デニューダーシステム
2) フィルターパック法
3) DOAS (Differential Optical Absorption Spectroscopy) (オープンパスの長光路UV吸収法)
4) LOPAP (LOng Path Absorption Photometer) (ストリッピングコイルを用いた二段吸収法)
5) ADAMD (Air Dragged Aqua-Membrane Denuder system)あるいはその改良法の2段式向流管吸収法(Counter current flow tube system) (当研究室で開発した方法)
図5にADAMDの測定装置の概略を示します。試料ガスを内径2 mmのガラス管の下部から1.2 L / minで導入します。そこに吸収液を0.07 mL / minで導入すると、その吸収液は気体によって引き上げられます。その間に気体のHONOは吸収液にほぼ100%吸収されます。一方NO2は0.01%ほどしか吸収されません。この吸収液を気体と分離して反応試薬を加えて蛍光が出る物質に変換してHONO濃度を測定するという方法です。
ADAMDの概略図
HONOの吸収効率はほぼ100%で、NO2の吸収効率が0.01%以下。HONOの検出限界は、0.005 ppb。
この方法で測定した結果を下図に示します。朝のラッシュ時にピークがあり、これは車から直接排出されたものと考えられています。日中に濃度は下がりますが、これは光分解のためです。夜間は分解過程がありませんので、濃度が上がります。ただし、夜間露ができると濃度が下がることもあります。HONOは水に溶けやすいからです。
HONOは上で述べたように非常に重要な物質でありながら、その発生源も消失経路もすべてわかっていないのです。発生源、消失経路、人体影響など、亜硝酸は結構面白い研究ターゲットだと思います。