志を共有して励ましあえる仲間を得るため、幅広い人々と交流し、語り合える機会を。 国際基幹教育機構高等教育研究開発センター | 教授西垣順子 研究テーマを教えてください。 人の生涯発達における「学ぶこと」の役割について 研究の内容を教えてください。 学ぶことは「受験や就職のため」や「スキル獲得のため」といった狭い目的に押し込められて語られがちです。しかし本当はもっと大きな可能性があり、個々人の人生を豊かにし、人々が互いを理解して平和な世界を作っていけるものでもあります。どのような学びが、個人の発達をどう豊かにするかについて、大学での学びを中心に検討しています。また最近は、学校に行きづらい子ども達のフリースクール等での学びや保護者・支援者の成長にも関心を持っています。 今後達成したい研究目標や、現在の研究を社会にどう貢献させていきたいかなど、教えてください。 現在の日本社会にはびこる、学びについての偏狭な考え方が変わってほしいと思っています。現行の法制度を変えていけるくらいの、世論の掘り起こしができたらよいなと思います。 その目標を達成するために、研究時間の確保などの日々行っている工夫や、取り組んでいる活動などを教えてください。 健康でいないと頭が冴えませんので、生活と心身を整えることが何より大切で、それを攪乱する要因を最大限減らす工夫が大事です。私にとっての最大の攪乱要因は親なので(親にも事情があるので仕方ないです)、「決して踏み越えさせない壁」を強固に作りつつ共存を図っています。また家族についてはできるかぎり情報公開しておくと、善意から余計なアドバイスをしてくる人がいなくなるのでおススメです。 時には研究が止まることや、思うような研究成果が出ないときもあるかと思いますが、そのようなときにどうやって乗り越えるかを教えてください。 「乗り越えてきた」という実感はないのですが。「止まる」ということは、進める道がその方向ではないということなので、都度都度、進める方向を見つけて進んできました。 研究者としてのキャリアを諦めようと考えたことはありますか。もしあれば、そのとき何を思い、考えて、やはり継続していこうという決断に至ったのかを教えてください。 あるようなないような…というところです。私が院生だった頃は、日本育英会(現在は学生支援機構)の奨学金(教育ローン)を、大学も含めて教員になって15年働けば特別返済免除になるという制度がありました。私は高校の時から借りていましたので、大学院修了時で880万円の借金がありました。「岩にかじりついてでも研究者としてのキャリアを築く」か、「(同じく岩にかじりつきながら)880万円を返済しつつ他の生活手段を確保するか」の2択だったので、前者の道が完全に閉ざされない限りは、諦めるという選択肢はなかったです。なお、現在は学費も高騰していたりして、低所得世帯の状況は私が学生だった頃より大変です。その状況にはシンプルに腹が立つので、学費の漸進的無償化に関する研究会などにも参加しています。もし悩んでいる人がいれば、現在は奨学金の会などの支援団体もあるので、ひとりで悩まずに相談先につながってほしいと思います。 研究者へとしての道を歩んでいる若手研究者へメッセージ 研究者というキャリアに不安や焦りはつきものだと思います。そして、その不安に付け込む誘惑は数多あります。研究不正に関わってしまうような酷い状況でなくても、「評価を得るために研究する」という行動に陥って抜け出せなくなることもあります。そういう誘惑に負けないためには、「何のために研究をしたいのか」という志を共有して励ましあえる仲間(共同研究者とは限りません)を得ることはとても大事だと思います。そのために、若いうちから幅広い人々と交流し、語り合える機会をもってください。