研究から雑談まで話せる仲間、研究を通じた新しい出会いを大事にしてください。 現代システム科学研究科教育福祉学類 | 教授内藤葉子 研究テーマを教えてください。 政治と倫理、身体性と主体性、ケアと依存をめぐるジェンダー思想研究 研究の内容を教えてください。 わたしたちはどのような生き方を選び、他者と共生していくのか、またどのような政治社会を求めるのかという問いに関心があります。その一つとして、ドイツの科学者マックス・ヴェーバーを対象に、政治と倫理の関係を問う政治思想研究を行ってきました。またジェンダー思想史の観点から、女性の主体性と身体性に関する議論を展開した、第一波フェミニズム期のドイツ市民女性運動を追究しています。さらに「ケアの倫理」を軸に、人間の依存や尊厳を問い直す研究をしています。ここから、動物や環境までも視野にいれて、公正な社会をどのように構想できるのか、現代フェミニズム理論を手掛かりに考えているところです。 今後達成したい研究目標や、現在の研究を社会にどう貢献させていきたいかなど、教えてください。 「ケア」に注目して思想史や現代社会を見ると、「見えなくなっていること」や「低く評価されていること」が多くあることに気づきます。それはこの社会における生きづらさにも関わっているはずです。人間がケアを必要とする「依存する動物」でもあることを正しく評価できるよう、「ケアから開かれる社会」について考えたいと思っています。 その目標を達成するために、研究時間の確保などの日々行っている工夫や、取り組んでいる活動などを教えてください。 まとまった研究時間がないとなかなか研究に没入できないタイプであるため、スケジュールに落とし込んだ締切を意識しながら、研究のために他の予定をいれない日を捻出するよう心がけています。ただ、研究以外の仕事が年々増えており、しかも複数のタスクを抱え込むため、研究時間の確保はいっそう切実な課題となっています。目標達成に関わって取り組んでいる活動としては、女性学研究センターから、ジェンダーやフェミニズムに関する講演会やセミナーを企画して、情報発信を行っています。当センターでは、「共に生き、支えあう社会」をめざして活動しています。 時には研究が止まることや、思うような研究成果が出ないときもあるかと思いますが、そのようなときにどうやって乗り越えるかを教えてください。 誰かに話を聞いてもらう、というのがまず思いつきますが、研究の視座は往々にして決まった角度からになるので、行き詰まっているときは、別の見方に触れるようにします。例えば、深みのあるアート作品に接したときに、その世界の捉え方に驚いたり共鳴したり、何か別の思考回路が動くように感じます。日常的には、育児や家事のプロセスに、研究するときとは違う身体の動きや感覚を経験します。すぐに効果があるわけではないのですが、研究とは異なる経験をすることによって、バランスを取り戻しながら乗り越えようとしてきたように思います。 研究者としてのキャリアを諦めようと考えたことはありますか。もしあれば、そのとき何を思い、考えて、やはり継続していこうという決断に至ったのかを教えてください。 研究を諦めるつもりはなかったのですが、専門分野的に就職が厳しいとか、子育てとの両立が困難で研究時間がとれないとか、低空飛行の期間は長く続きました。先の見えないしんどさを抱えながらも、人生を終えるときに何をしていなかったら後悔するだろうかと考えて、物事の優先順位を整理していました。ただ、研究から離脱しないですんだのは、自分の意志もありますが、いろんな形で支えてくれたパートナーや研究仲間の存在も大きいです。 研究者へとしての道を歩んでいる若手研究者へメッセージ 人文社会科学系の学問分野は一人でも研究できるように思われがちですが、実際のところ、一人ではできないと痛感しています。研究内容から他愛のない雑談まで、対話のできる仲間との関係や、研究を通じた新しい出会いを大事にしてください。研究課題については、論文を書いて周囲の研究者から批評されてください。その積み重ねのなかで研究者として成長していくのだと思います。応援しています。