独創性とは何か、自分のオリジナリティを追求してほしいと思います。 理学研究科物理学 | 教授細越裕子 研究テーマを教えてください。 分子性化合物の物性研究、特に磁性 研究の内容を教えてください。 磁石といえば鉄のイメージかもしれませんが、金属元素を使わずに、炭素・水素・窒素・酸素といったプラスチックスの素材で磁石を作る研究をしています。磁石としての性質を調べるために、絶対零度(マイナス273℃)近くまで冷やしたり、50万ガウスの磁場を加えたり、1万気圧に押したりします。(過酷な環境に晒されるのは実験試料だけで、実験者は室温常圧の平和な世界で過ごします)。原子から分子へ、分子1個から分子集合体へ、構成要素を拡張して、新しい磁石の合成を目指しています。 今後達成したい研究目標や、現在の研究を社会にどう貢献させていきたいかなど、教えてください。 磁石の存在はよく知られていますが、なぜ磁石になるのか、は難しい問題です。磁石の根本原理を探る基礎研究を中心に行っています。有機磁石は低比重で軽いため、単位体積当たりの磁化の強さでは金属磁石に適いませんが、周囲環境に敏感に応答し、温度、磁場、圧力、光、電場によって、磁石の性質を操ることが可能です。磁石の性質を熱に変換することで、特定の方向にのみ熱を逃がす熱対策材料や、有機分子特有の早い電子移動を利用した電池やスイッチング素子への応用展開性があります。 その目標を達成するために、研究時間の確保などの日々行っている工夫や、取り組んでいる活動などを教えてください。 正直なところ、時間は全く足りません。100%を目指すと破綻するので、80%を心がけ、とにかく少しでも進めること。いかに周囲に頼るか、いかに割り切るか、なかなか難しく、私はまだまだ試行錯誤の渦中にいます。 時には研究が止まることや、思うような研究成果が出ないときもあるかと思いますが、そのようなときにどうやって乗り越えるかを教えてください。 「大丈夫、みんなそんなに進んでいないから。」これは、出産後間もない時期に、男性先輩研究者から言われた言葉です。実験にかかる時間と研究成果は必ずしも相関しなかったり、そもそも研究時間が思うように取れなかったり、当時焦る気持ちも多々あったのですが、言われてみれば、学会において皆が劇的な進展を遂げた研究成果を発表している訳ではなく、肩の力が抜けました。良いときもあればうまくいかない時もある、人生の中で無駄はなく、ちゃんと道はつながっているので、なるようになる、と楽観的に考えることにしています。 研究者としてのキャリアを諦めようと考えたことはありますか。もしあれば、そのとき何を思い、考えて、やはり継続していこうという決断に至ったのかを教えてください。 私は産前産後が重かったので、徒歩通勤できたことで(夫は1.5時間の電車通勤)、仕事が続けられたと思います。縁もゆかりもない大阪で出産し孤立感もあり、研究者生命の危機を感じたこともありました。どうやって乗り越えたか決め手となる出来事があったというよりも、家族や周囲と協力する中で、いつの間にか続いていた、という感じです。仕事で社会とつながることは、子育てにも良い影響があると思っています。小児科の医師いわく、「赤ちゃんは熱をだすのが仕事。月に3回は熱を出す。それで免疫を獲得する。」3歳になるとだいぶ落ち着きますが、以降も年齢に応じた子育てが続きます。出産は一過性の行事ではないのでライフイベントという言葉は好きではありません。 研究者へとしての道を歩んでいる若手研究者へメッセージ 独創性とは何か、自分のオリジナリティを追求してほしいと思います。研究は、どんな些細な対象に対しても成立してしまうので、研究する価値があることの見極めが大切です。そして、誰もやっていない、イコール独創性ではないことも自戒していただきたい点です。