目の前のことに誠実に取り組む姿勢を大切に。点と点はいつか線になる。 医学研究科公衆衛生学 | 教授福島若葉 研究テーマを教えてください。 ワクチンの疫学、難病の疫学 研究の内容を教えてください。 疫学、すなわち「ヒト集団を対象に健康事象を解き明かす学問」に基づいた研究を行っています。ワクチンの疫学研究では、各種ワクチンの有効性や安全性を評価しています。難病の疫学研究では、個別難病の研究実績をベースに、難病疫学研究の適正推進に資する情報や知見の普及・啓発を行っています。どちらのテーマも、厚生労働省の助成による研究班の研究代表者を務めています。 今後達成したい研究目標や、現在の研究を社会にどう貢献させていきたいかなど、教えてください。 私の専門である公衆衛生学は、医学の分野では、基礎医学でも臨床医学でもない「社会医学」に分類されますので、研究成果の「社会への還元」が一層求められます。また、疫学の定義では、「研究結果を健康問題の対策に応用」するステップまでが疫学である、とされています。ワクチンの疫学では、ワクチンの有効性・安全性に関する種々の行政課題に対して疫学的根拠を創出し、予防接種政策の最適化に貢献すること、難病の疫学では、患者数が少なく多彩な症状や病態を呈する難病の疫学像解明に向けた技術的基盤を支え、難病対策の推進に貢献することを最終目標として、班研究を統括しています。 その目標を達成するために、研究時間の確保などの日々行っている工夫や、取り組んでいる活動などを教えてください。 自らが手を動かして研究にかけることのできる時間(個別の疫学調査の実務運営やデータ解析の時間など)は年々減っています。数年前はもっとましだったなあ、と思うことの連続ですので、若手の皆さんがイメージする「研究時間の確保」は、心には留めているものの、特に最近はうまくいっていません。並行して、大きな研究プロジェクトの管理運営(研究班の研究代表者など)や後進の育成・指導など、現在の職位で果たすべき活動も着実に進めていかなければなりません。双方のバランスを取るのはとても難しく、私自身の継続課題です。 時には研究が止まることや、思うような研究成果が出ないときもあるかと思いますが、そのようなときにどうやって乗り越えるかを教えてください。 実験系の研究(ウェットな研究に分類)と、私が専門とする疫学研究(ドライな研究に分類)では考え方が違うかもしれませんが、疫学研究では、いわゆる「ネガティブデータ」、すなわち関連なし(有意差なし)の研究でも、十分な考察とともに公表することができます。実際、私の学位論文はネガティブデータでした。当初仮説で思い描いていた結果は、様々な切り口でのデータ解析を行っても得られず、途方に暮れていたところ、当時の指導教授の廣田良夫先生(現:大阪市立大学名誉教授)が、「それならその結果で論文を書きなさい。その結果が、あなたの研究の対象集団での事実なのだから」と言われ、はっとしました。考察は大変苦労しましたが、学位研究、すなわち逃げ出すことができない環境で必死になってまとめた当時の経験は、その後の私の研究者人生における基本的な考え方の素地となったと感謝しています。ちなみに、私の座右の銘は、「人生何事も経験、無駄なことは何一つない」です。研究で思うような成果が出ないときは本当にしんどいですが、その後の自分の糧になる、点と点はいつか線になると信じて、少しずつでも良いので進んでください。 研究者としてのキャリアを諦めようと考えたことはありますか。もしあれば、そのとき何を思い、考えて、やはり継続していこうという決断に至ったのかを教えてください。 大学教員になってからは、次から次へと現れる仕事に取り組むことで精いっぱいで、キャリアを諦めようと考える余裕もなく、今に至ります(笑)。そのような中でも、目の前のことに1つ1つ誠実に取り組むことだけは心がけてきたつもりです。そのような姿勢を評価してくださる方々の理解、そして何よりも、家族の理解があってこそ、今も研究者を続けることができているのだと思います。 研究者へとしての道を歩んでいる若手研究者へメッセージ 教育に携わってきた中で1つ実感するのは、「素直な人は、年齢にかかわらず伸びる」ということです。「素直」とは、イエスマンではありません。他人の良いところを取り入れ、指摘は謙虚に受け止めて、自己を柔軟に修正してく能力です。研究の世界は決して華やかではありませんし、予想していた解が得られるとは限りません。「日々の努力がいつか結実すると信じ、一歩一歩進む」といった地味なものかもしれません。それでも、自身の研究成果が認められ、社会に貢献できた時は、言葉に表せないぐらいの充実感です。数ある仕事の中で、研究者の道を選ばれたことは、とても素晴らしいことです。直面する困難は多々あると思いますが、それぞれの解決法で乗り越えられ、さらに発展されることを心から願っています。