現在の研究テーマ
魚類-生態
キーワード:共生関係、社会構造、給餌、進化
本研究室では、北は北海道、南は沖縄、またタンガニイカ湖やカナダといった国外まで、様々な場所で硬骨魚類を中心に行動生態や種間関係、進化に関してSCUBA潜水により調査しています。生物は多様な環境の中で、同種、他種問わず様々な関わりをもちます。また、近縁種であっても多種多様な生態が観察されています。これらを詳細に調べることで、複雑な関係性や状況に応じた個体の戦略、種間相互作用、個体間相互作用がどのようにして形成されているのか、進化生物学的な視点や社会生物学的な視点を取り入れて解明することが大きなテーマです。
研究紹介
クマノミの繁殖様式やイソギンチャクとの種間関係の解明
クマノミが自身の宿主であるイソギンチャクに給餌するという、これまであまり議論されてこなかった行動に着目し、給餌がイソギンチャクの成長に寄与していることを明らかにしました。また、クマノミは一般的に一夫一妻の魚とされていますが、実は一夫多妻や一妻多夫といった別の婚姻形態も報告されています。このような婚姻形態の違いがどのように生じるのかも明らかにしていきます。
ホンソメワケベラにおける裏切り中心の社会関係の解明
他の魚に付着した寄生虫を摂食する「親切な」ホンソメワケベラですが、粘膜や皮膚をかじる「裏切り」行動も知られています。寄生虫の数が少ない環境での調査から、裏切り行動の頻度は状況依存的に変化することを明らかにしました。このような裏切り中心の社会関係は今まで考えられてきたよりも、一般的なのかもしれません。
「相互給餌仮説」から紐解くエビ-ハゼの共生の新たな側面
エビ-ハゼの共生は、単純な「見張りー巣穴の提供」だけでなく、ハゼは自身の糞をエビに、エビは溝掘りによってベントス(底生生物)をハゼに、両者が相互に給餌し合う(相互給餌仮説)という別の側面があることを明らかにしました。今後は餌や環境の違いによって相互給餌の関係、ひいては共生関係自体がどのように変動するかを解明していきます。
なぜ体内受精は進化したのか?-魚類をモデルに解明する
近縁種に体外受精種、体内受精種が混在する海産硬骨魚類に着目し、受精の要である精子の形態、運動性が受精様式の進化にともない適応的に進化したことを解明しました。体外受精から体内受精へ至る受精様式の進化は生物の陸上進出に関わる重要な現象なので、体内受精の獲得がもたらす種分化の理解へつながることが期待できます。
魚類-認知
キーワード:自己認知、向社会性、推論、顔認知
野外観察から、ホンソメワケベラやシクリッドなどの社会には協力や欺きといった巧みな駆け引きが存在することが報告されています。さらに、魚類の脳構造や神経基盤は、哺乳類と相同であることもわかってきています。本研究室では、おもに水槽実験を通じてこれらの魚類の知性、たとえば、私たちヒトと同じように自分の内面を理解する、相手が誰で何を考えているか推測する、過去と現在を照らし合わせて未来を予想する、といった認知能力を持っているか検証し、脊椎動物の認知や社会性がいかに進化したのかを解明することに挑戦しています。
研究紹介
ホンソメワケベラにおける鏡像自己認知
魚類(ホンソメワケベラ)が鏡に映った自分の姿を見て自分だとわかる「鏡像自己認知」をもつことを世界に先駆けて解明しました。現在の研究では、ヒトと同じように自分の顔のイメージに基づいて自己認識する可能性まで示唆されています。今後はホンソメがどのように鏡像が自分であることを「理解」するのか、ヒトと同様に「自己意識」を持つのか明らかにしていきます。
魚類における向社会性
小型のカワスズメ科魚類であるコンビクトシクリッドが社会的選好を持つことを発見しました。社会的選好とは、自分だけが得をする選択肢と自分に加えて他人も得をできる選択肢があった場合、後者の選択を好むという性質のことです。 コンビクトシクリッドは、ヒトと同様に、自分だけでなく繁殖パートナーも報酬を得られる選択肢を好みます。
魚も顔で相手を見分ける?-個体識別の視覚認知プロセス
相手が繁殖相手か、子供か、群れの仲間か、敵対者かを見分ける能力は重要です。これまで、プルチャーという共同繁殖魚に注目し、彼らが顔で相手を見分けられること、顔の印象の捉えかたはヒトとよく似ていることを明らかにしています。同様の結果は異なる社会生態をもつグッピーやメダカでも確かめられており、顔で相手を見分けるというのは動物では案外ふつうなのかもしれません。