抗疲労食品素材・製品の開発

 健康科学をイノベーションにつなげるには、具体的に何を軸足にし、どのような経済価値を産み出すことを狙ったらいいのでしょうか? 
 日本の科学技術の先進性を活かし、世界をリードして健康科学をサイエンスとして進め、また、健康科学イノベーションに直裁に繋げていくには、欧米の受け売りではなく、真にオリジナリティのある研究を軸足にすべきと考え、私たちは「疲労(慢性疲労)克服」を健康科学イノベーションの軸足と位置づけています。
 大阪産業創造館が三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託した当時の調査では、2020年度の、「抗疲労・癒しビジネス市場」は、日本で、12兆円/年になると算出されました。このチャンスを見逃さず、日本企業の巧みなものづくり・ことづくりの才能を十二分に発揮することが科学技術立国日本として重要になってきます。
 多様な原因による疲労の度合いを計測するためのバイオマーカーの開発、疲労動物モデルを用いた効能試験の実施とともに、抗疲労医薬品・食品、生活環境製品の開発が可能になってきました。私たちは、これらの開発されたバイオマーカーを用いて、とくに、抗疲労食品開発を目指す産官学連携プロジェクト「疲労定量化および抗疲労医薬・食品開発プロジェクト」に梶本修身・特任教授を責任者として、大阪市、18企業、大阪市立大学、関西福祉科学大学、東京慈恵会医科大学、大阪大学と進め、食品素材の効果を評価し成果を創出してきました。アップルフェノン、アスコルビン酸(ビタミンC)、コエンザイムQ10、D-リボース、クエン酸、茶カテキン、クロセチン、ビタミンB1誘導体、イミダゾールジペプチド(カルノシン、アンセリン)の抗疲労効果を明らかにし、論文発表もしました。このうち、イミダゾールジペプチドは、酸化バイオマーカーを減らし、運動性疲労で増加するサイトカインの上昇を抑え、疲労感と疲労パフォーマンス双方に効果がある理想的な抗疲労食品であることが判明し、イミダゾールジペプチド含有飲料などが開発されています。逆に、カフェインは、摂取時の覚醒は認めるものの、その後の疲労には悪影響を与えることも明らかになりました(文献4)。また、日本疲労学会では、日常生活疲労に対する臨床試験ガイドラインも作成しました。

科学的に立証_3

抗疲労=4

食栄養薬_7

 

参考文献


            1. 渡辺恭良,水野敬 著  「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」, 日刊工業新聞社, 2018年
            2. 渡辺恭良 編 「最新・疲労の科学~日本発:抗疲労・抗過労への提言」別冊「医学のあゆみ」, 医歯薬出版株式会社, 2010年
            3. Fatigue Science for Human Health (Watanabe Y. et al. eds.), Springer, 2008.
            4. 渡辺 恭良, 水野 敬, 浦上 浩 著 「おいしく食べて疲れをとる」JAPANESE FOOD「ああ疲れた」にこの1冊!, 丸善出版, 2016年