健康と自覚症状
私たちの健康が損なわれそうな自覚症状には、どのようなものがあるのでしょうか?
表1に示した【健康が損なわれそうな自覚症状】などを私たちは自覚し、そのうちに慢性化・顕在化し、何らかの病気として発症、発見されるということになります。まさに、physical(身体的)やmental(精神的)な部分ばかりでなく、spiritual(スピリチュアル)な部分の後退が存在することを自覚するのです。
一方、「何故、健康が損なわれる状況になるか」という健康被害の原因・要因は、時代とともに変遷し、そのような原因・要因別の対処が求められています。「個別化医療」と同じく、「健康科学の個別化」も重要なイノベーション要素なのです。
これら【健康被害の原因・要因】(表2)にどう対処していくか、すでに、多くの対策が立てられたものも多く、法的・医学的に予防環境が整備されているものもあります。しかし、とくに、spiritualやsocial(社会的)な部分で、どのような対策を講じていけば良いか、まだ、明確な道筋が見えていないものもあります。とくに、私たちに日々荷重が多くなってきているこれまでと質の違ったストレスの増大(グローバル経済連鎖、インターネット環境やコミュニケーションツールの変革、新型コロナウイルスの感染拡大など)や、子ども達が受けている受動的な生活環境変化などは、図2のような相互連関をもって、未病から疾患への「負のスパイラル」に、私たちを引き込んでいきます。
この図2の中で、睡眠や痛みについての研究はかなり進み、それぞれのメカニズムや障害のメカニズム、病気との関連についてはかなりの知識が積み上げられてきました。ところが、『疲労』、とくに『慢性疲労』については、客観的なバイオマーカーやそれを用いた計測法がなかったこともあり、医学研究はなかなか進んでいませんでした。図3は、私たちの研究結果ですが、小中学生の疲労度合いと学習意欲の低下は、非常にきれいな統計的有意な因果関係があり、3年間の追跡研究(コホート研究)では、疲労の強くなった子どもほど学習意欲の低下が大きく、疲労度が低下した子どもは学習意欲も上昇していました。また、疲労と関わる大きな要因は、睡眠時間、就寝時刻、朝食、テレビやゲームの時間、周囲からの注目・賞賛などであり、十分、社会的・家庭的に介入できるものでした。
1 |
痛み(急性、遷延性、周期性、慢性) |
2 | 肩こり、腰痛、眼精疲労 |
3 | 疲れ、だるさ(急性、遷延性、周期性、慢性) |
4 | 睡眠不足、昼間の眠気 |
5 | 意欲(食欲、性欲等も)の低下、抑うつ傾向、不安 |
6 | 活動量の低下、作業能率の低下 |
7 | 集中力、注意力、思考力、認知機能の低下 |
8 | 微熱、発熱、局所炎症 |
9 | 便通異常 |
10 | その他 |
表2.健康被害の原因・要因
1 |
低栄養(ビタミン、微量元素、必須アミノ酸、不飽和脂肪酸等) |
2 | 公害、環境 |
3 | 薬物、食品添加物、混入物(化学製品) |
4 | 飽食、肥満 |
5 | 無理なダイエット |
6 | 日常生活の多忙、慌ただしさ |
7 | グローバリゼーション |
8 | 6や7による睡眠不足・リズム障害 |
9 | 独居、コミュニケーション不足、笑いの欠如 |
10 | その他 |
参考文献
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- 渡辺恭良,水野敬 著 「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」, 日刊工業新聞社, 2018年
- 渡辺恭良 編 「最新・疲労の科学~日本発:抗疲労・抗過労への提言」別冊「医学のあゆみ」, 医歯薬出版株式会社, 2010年
- Fatigue Science for Human Health (Watanabe Y. et al. eds.), Springer, 2008.
- JAPANESE FOOD「ああ疲れた」にこの1冊!, 丸善出版, 2016年 著 「おいしく食べて疲れをとる」
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