健康科学とは

 健康が損なわれ、様々な疾病に向かって行く時、私たちは、おぼろげな異常を感じて、いわゆる東洋医学(中医学)でいうところの「未病」状態となります。未病は明確な疾病ではないので、診断の付くような指標、すなわち、疾患バイオマーカーが有意に出ていない状態であると言えます。むしろ、「未病」は、特に目立った症状が無くても、「元気がない・活力が出ない」状態であると言われてきました。
 しかし、「元気がない・活力が出ない」あるいは、「意欲が低下している」ことを裏返しにすると、「だるい・疲れを感じている」、ないしは、「もうこれ以上無理ができない」状態とも言えます。実際に、未病状態では、私たちの体の恒常性(ホメオスターシス)を保つ機能である、免疫-神経-内分泌系の調節機能が低下していると考えられています。健康と疾病の連続性_10
 
このことは、図1に示すように、健康を損なうような自覚症状がある際(未病の際)で、まだ疾病バイオマーカーが有意に検出されない時期に、健康に押し戻す、あるいは、健康である時期に健康増進を図り、未病になることをも予防することが「健康科学」の神髄であると言えます。すなわち、「健康科学」には、「未病から病気にならないようにする科学」と「健康から未病に陥らないようにする科学」そして、「健康である状況を増進する科学」を含んだ3つの要素があることになります。
 
「健康科学」の意味は広く、「先んじた介入により病気にならないようにする『先制医療』」の概念より広いものを指すことになります。


 


参考文献


            1. 渡辺恭良,水野敬 著  「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」, 日刊工業新聞社, 2018年
            2. 渡辺恭良 編 「最新・疲労の科学~日本発:抗疲労・抗過労への提言」別冊「医学のあゆみ」, 医歯薬出版株式会社, 2010年
            3. Fatigue Science for Human Health (Watanabe Y. et al. eds.), Springer, 2008.
            4. 渡辺 恭良, 水野 敬, 浦上 浩 著 「おいしく食べて疲れをとる」JAPANESE FOOD「ああ疲れた」にこの1冊!, 丸善出版, 2016年